翌朝、四人は朝食を済ませてからギルド「クロスロード」に向かった
昨夜はゆっくり休めたおかげで、全員すっきりとした表情だった
「おはよう、みんな!」
モノが元気よく出迎えた
「よく眠れたか?」
「おかげさまで」
ゾルガが答えた
「宿も素晴らしかったです」
「それは良かった、エリナが選んでくれたんだ」
エリナが受付から顔を上げた
「おはようございます、今日は詳しい説明をさせていただきますね」
ギルド内を見回すと、朝の時間帯にも関わらず、それほど多くの冒険者がいないことに気づいた
「あまり人がいないね・・・」
レオンが観察した
「そこが問題なんだ・・・」
モノの表情が少し曇った
「詳しい話は奥で聞こう」
一行は奥の会議室に案内された
そこには詳細な街の地図とダンジョンの資料が並べられていた
「では、現状を説明させてもらうぜ」
モノが立ち上がった
「まず、この街とダンジョンについてだが・・・」
エリナが資料を広げながら説明を始めた
「ハーモニーヘイブンは、建設から半年が経ちました・・・人口は約2000人で、魔物族と人間族がほぼ半々です」
「意外と少ないのね・・・」
ゾルガが感想を述べた
「そうなんだ・・・」
モノが頷いた
「両国政府は5000人規模の街を想定してたんだが、実際に移住してくる人は少ない」
「理由は?」
レオンが尋ねた
「やっぱり不安なんだろうな」
モノは肩をすくめた
「異種族と一緒に住むことに抵抗がある人が多い」
トムが手を上げた
「でも、俺たちの街では結構うまくいってるじゃないか」
「確かにそうだ」
ザックも同意した
「最初は大変だったけど、今は慣れたもんだ」
「君たちの街は長い時間をかけて関係を築いてきたからな」
ノモは解釈し
「ここは急に作られた街だから、まだ信頼関係が足りないの」
エリナは説明した
「そして、問題はギルドの方だ」
モノが深刻な表情になった
「登録冒険者は現在50人しかいない」
「50人!?」
レオンが驚いた
「それは少なすぎる」
「ダークレイムのギルドは200人以上いるのに」
ゾルガも心配になった
エリナが続けた
「しかも、そのうち本格的に活動しているのは30人程度です・・・残りは登録だけして、実際にはあまり依頼を受けていません」
「なぜだ?」
レオンが尋ねた
「いくつか理由があるんだ」
モノが指を折りながら説明した
「まず、ダンジョンが危険すぎる、『永劫の迷宮』は本当に巨大で、一人や二人では攻略できない」
「チームを組めばいいんじゃないか?」
ザックが提案した
「それが問題なんだ・・・」
エリナが苦笑いした
「人間の冒険者と魔物の冒険者が、なかなかチームを組みたがらない」
「まだお互いを信頼してないってことか」
トムが理解した
「そういうことだ・・・」
モノが頷いた
「それに、依頼の種類も限られている・・・ダンジョン攻略以外に、街の警備や商隊の護衛くらいしかない」
ゾルガが資料を見ながら言った
「でも、この街には商人もいるんでしょう?商業ギルドとの連携は?」
「それも課題の一つです」
エリナが答えた
「商業ギルドとの関係はまだ構築中で、冒険者への依頼も少ないんです」
「つまり・・・冒険者が少ない、チームワークが悪い、依頼も少ないという三重苦か」
レオンがまとめた
「その通りだ」
モノが深いため息をついた
「正直、このままだとギルドとして成り立たない」
しばらく沈黙が続いた・・・ザックが口を開いた
「でも、俺たちがいるじゃないか!!!何とかなるだろ?」
「ザックの言う通りよ」
ゾルガも前向きに言った
「私たちの経験を活かせば、きっと改善できる」
モノの表情が明るくなった
「そうだな!実際、君たちが来てくれたおかげで、希望が見えてきた」
「具体的にはどんなことから始めればいいのかしら?」
ゾルガが尋ねた
エリナが提案した
「まずは、既存の冒険者たちとの関係作りからでしょうか・・・彼らの信頼を得ることが第一歩だと思います」
「それと、新しい冒険者の勧誘も必要だな」
レオンが付け加えた
「あと、依頼の種類を増やすことも大切だ」
トムが提案した
モノが手を叩いた
「よし、じゃあ今日から早速始めよう!まずは現在のギルドメンバーに君たちを紹介するぜ」
「いつ紹介していただけますか?」
ゾルガが尋ねた
「今すぐだ!」
モノが立ち上がった
「実は昨日の夜に連絡して、今朝集まってもらってるんだ」
「え?もうですか?」
レオンが驚いた
「うはははは!俺は行動が早いのが取り柄だからな」
エリナが苦笑いした
「モノはいつもこうなんです、思い立ったらすぐ行動」
「まあ、それも悪くないわね」
ゾルガが微笑んだ
「早速会わせていただきましょう」
「よし、じゃあ大広間に行こう」
モノが先頭に立った
四人は期待と緊張を胸に、新しい冒険者たちとの出会いに向かった
これから始まる挑戦の第一歩が、今まさに踏み出されようとしていた
・・・・・
大広間の扉を開けると、30人ほどの冒険者たちが集まっていた
人間、魔物、ドワーフ、エルフと様々な種族が混在していたが、明らかにグループが分かれているのが見て取れた
「みんな、集まってくれてありがとう!」
モノが大きな声で呼びかけた
「今日は特別なゲストを紹介するぜ」
冒険者たちの視線が一斉に四人に向けられた
その中には好奇心、警戒心、そして期待の混じった様々な表情があった
「紹介しよう、魔王国の首都で受付嬢をしていたゾルガだ」
モノが指差した
「そして、その旦那で優秀な冒険者のレオン」
「さらに、彼らの護衛として同行してくれたザックとトムだ」
冒険者たちの間からざわめきが起こった
「あの有名なカップルか・・・」
「本当に青い肌なんだな」
「人間と魔物が結婚したって話は聞いてたけど・・・」
ゾルガが一歩前に出た
「初めまして、ゾルガです、至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
彼女の丁寧な挨拶に、冒険者たちの表情が少し和らいだ
「レオンです。皆さんと一緒に、このギルドをより良いものにしていけたらと思います」
「俺はザック!よろしく頼むぜ!」
「トムです!頑張ります!」
モノが続けた
「彼らは異種族間の協力において豊富な経験を持っている、俺たちのギルドにとって、きっと大きな力になってくれるはずだ」
その時、人間の冒険者グループの中から一人の男が立ち上がった
筋骨隆々とした戦士で、不満そうな表情をしていた
「ちょっと待ってくれ」
男は大きな声で言った
「俺たちは何も聞いてないぞ!!!いきなり外部の人間を入れるなんて」
「どういうことだ、ガレス?」
モノが眉をひそめた
ガレスと呼ばれた男は腕を組んだ
「俺たちはここで必死に頑張ってきた・・・それなのに、いきなり外部から『指導者』を連れてくるなんて、俺たちを信用してないってことか?」
他の人間冒険者たちも同調するように頷いた・・・
一方、魔物の冒険者たちは静かに様子を見ていた・・・
エリナが仲裁に入ろうとした
「ガレス、彼らは指導者として来たわけじゃなくて・・・」
「副マスターは黙ってろ!!!」
ガレスが遮った
この無礼な発言に、魔物の冒険者グループから不満の声が上がった
「おい、副マスターに向かって何て口を利いてるんだい」
オーク族の女性戦士が立ち上がった
「マリア、君も座ってくれないか?」
ノモは、オーク族の女性戦士・マリアを宥め
ガレスが、マリアの方を振り向き
「魔物が口を出すなや・・・」
「何だと!?もう一遍言ってみろや!!!」
マリアが怒りを露わにした
ザックがその雰囲気を見て、小声でつぶやいた
「なるほど、問題の根は深そうだな」
「このままじゃ喧嘩になりそうだぞ」
トムも心配した
緊張が高まる中、ゾルガが静かに前に出た
「すみません」
彼女は穏やかな声で言った
「私たちの到着で混乱を招いてしまったようですね」
ガレスがゾルガを見た
「あんたが何を言おうが・・・」
「私たちは、皆さんの邪魔をしに来たわけではありません」
ゾルガは続けた
「皆さんがこれまで築いてきたものを尊重し、その上でお手伝いできることがあればと思っています」
その時、魔物の冒険者グループの奥から、重々しい足音が響いた・・・冒険者たちが道を開けると、一人の巨大な魔物が現れた
身長は2メートル50センチあろうかという大男で、黒い鱗に覆われたドラゴニュート族だった
鋭い爪と牙を持ち、赤い瞳が威圧的に光っている。彼の周りには、同じく魔物族の冒険者が4、5人従っていた
「ほう・・・」
低く響く声で男が言った
「これが噂の人間と結婚した魔物か」
モノの表情が急に緊張した
「ドラコ・・・」
ドラコと呼ばれたドラゴニュートは、ゾルガをじっと見つめた
「俺はドラコ・ブラッドファング・・・このギルドで『純血の牙』というパーティを率いている」
「純血の牙?」
レオンが眉をひそめた
「ああ~~」
ドラコは傲慢な笑みを浮かべた
「魔物族だけで構成されたパーティだ・・・人間なんぞと手を組む必要はない」
人間の冒険者たちから不満の声が上がったが、ドラコの威圧的な雰囲気に押し黙った
「ドラコ、それは・・・」
エリナが口を開こうとした
「人間の分際が口を出すな」
ドラコが冷たく遮った
「は?さっきから聞いてりゃあ・・・人間を馬鹿にしやがって」
ガレスが怒った
「ほう、人間でも庇い合うもんだな」
ドラコが嘲笑った
「だから人間は信用できん・・・」
ザックがゾルガの前に出ようとしたが、ゾルガは静かに手で制した
「初めまして、ドラコさん」
ゾルガは堂々とした態度で挨拶した
「ゾルガと申します」
「ふん!!」
ドラコは鼻で笑った
「魔物の誇りを捨てて人間に尻尾を振った裏切り者が何用だ?」
その侮辱的な言葉に、会場の空気が一気に凍りついた・・・
レオンが剣の柄に手をかけそうになったが、ゾルガが振り返って静かに首を振った
「裏切り者・・・そう思われるのも仕方ないかもしれませんね」
ゾルガは静かに言った
「ゾルガ・・・」
レオンが心配そうに見つめた
「でも・・・」
ゾルガは続けた
「私は魔物としての誇りを捨てたつもりはありません、ただ、心を通わせることができる相手を見つけただけです」
「綺麗事を・・・」
ドラコが吐き捨てた
「人間は魔物を利用することしか考えていない・・・お前はそれに気づかないほど愚かなのか?」
「なるほど・・・」
ゾルガは冷静に答えた
「あなたは人間に裏切られた経験がおありなのですね」
ドラコの表情が一瞬変わった・・・図星を突かれたようだった
「・・・過去のことなど関係ない」
彼は声を低くした
「事実として、人間は信用できん・・・魔物は魔物同士で団結すべきだ」
「それも一つの考えですね」
ゾルガは穏やかに答えた
「でも、私は違う道を選びました、それを裏切りと呼ぶなら、甘んじて受け入れます」
モノが割って入った
「ドラコ、お前の気持ちもわからんでもないが・・・」
「黙れ、モノ!!!」
ドラコが振り向いた
「お前は人間たちと仲良くしすぎだ!!!本来の魔物の気概を忘れたか?」
「俺は仲間を大切にしてるだけだ」
モノが反論した
「仲間?」
ドラコが嘲笑った
「いざとなったら、人間どもは自分の種族を選ぶだろう、所詮は他人事だ・・・」
その時、エリナが前に出た
「それは違います!!!」
彼女は毅然として言った
「私たちは本当の仲間です!!!種族の違いなんて関係ありません」
「証明してみろ・・・」
ドラコが挑戦的に言った
「お前の父親が魔物を攻撃する命令を出したら、お前はどうする?魔物の仲間たちを守るために父親に刃向かえるか?」
エリナは言葉に詰まった・・・モノも複雑な表情を見せた
会場に重い沈黙が流れた・・・ドラコの問いかけは、核心を突いていた
いざという時、血のつながりと友情のどちらを選ぶのか
「難しい問題ですね」
ゾルガが静かに言った
「でも、その答えは実際にその時が来るまでわからないでしょう、今は信じ合うことから始めるしかないと思います」
「甘い考えだ」
ドラコが吐き捨てた
「だが、まあいい・・・お前がどんな結末を迎えるか、見物させてもらおう」
そう言うと、ドラコは部下たちを従えて広間の隅に戻っていった
会場の緊張は続いていたが、ガレスが口を開いた
「・・・まあ、とりあえず様子は見てやる、でも、俺たちを見下すような真似をしたら許さないからな」
「もちろんです」
ゾルガが頷いた
「私たちも皆さんから学ばせていただきたいと思っています」
マリアが前に出た
「私は歓迎するよ、異種族間の協力なんて、私たちにはまだ慣れないことが多いから」
モノが安堵のため息をついた
「よし、じゃあこれから少しずつ親睦を深めていこう、今日は簡単な自己紹介タイムにしようぜ」
こうして、ギルドでの最初の一日が始まった
確かに課題は山積みだったが、特にドラコという大きな障壁があることが判明した
彼の「魔物族純血主義」は、ギルドの統合にとって深刻な問題となりそうだった
ゾルガは受付嬢としての経験を活かし、一人一人との信頼関係を築いていく決意を新たにした
特に、ドラコのような頑なな心を持つ相手にこそ、時間をかけて向き合う必要があると感じていたのだった