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第9話 収穫と白狐

クラブ「フクロウ」の個室にて、激怒した夜の王は怒り狂った野獣のようだった。


薄暗い照明の中で金歯が凶悪な光を放っている。


部下たちは息を呑み、空気には殺気が充満していた。


「クズが!全員役立たずだ!」


目の前のティーテーブルを蹴り飛ばし、高級な酒瓶やガラスの破片が四方に散らばった。


「一匹のネズミも捕まえられんのか!本拠地に侵入されて動画を撮られて持ち込まれただと!?探せ!地を掘ってでも、あの野郎を引きずり出せ!この手で刻んで犬に喰わせてやる!」


そのとき、個室の扉が勢いよく開かれた!


「セーフハウス」(実際には人質を監禁し脅迫資料を保管していた)を見張っていた部下が、転がるように飛び込んできて、顔は死人のように青ざめていた。


「ボ、ボス!大変です!「ドッグハウス」…が潰されました!」


「なんだと?!」

襟首を掴み、夜王は目を見開いた。


「さ、さっき……特殊警察みたいな連中が!火力が強くて全然太刀打ちできなくて……閉じ込めてた監督(島崎)と、捕まえたばかりの内通者(浩一に拉致され動画を撮られた悪党)が……連れ出されました!」


バン!


パソコンも……バックアップが……持っていかれてます!


頭上に重い鉄槌が落ちたかのようだった!


よろける部下の手を離し、怒りを超えて、恐怖に包まれた。


相手はただ彼の本拠を正確に突くだけでなく、人を攫い、動画を撮り、今や全ての証拠と証人を一気に奪っていったのだ!


これはもはや並の人間の仕業ではない!警察の対策戦か?


それとも、敵わないような組織?!


「くそっ!くそがぁーっ!」


剃り上げた頭を両手で掴み、傷跡がひきつって動いた。


「早く!全アジトに知らせろ、移転だ!痕跡はすべて消せ!急げ!」


だが、その命令が声となった瞬間、暗号通信機が狂ったように震えだした!


悪報が雪崩のように次々届く:


・渋谷・道玄坂の表向きのオフィスが国税局と警視庁の合同捜査で摘発され、大量の違法設備と帳簿が押収


・新宿の二つの地下マネロン拠点が潰され、責任者が逮捕


・複数の幹部名義の不動産が凍結、車両も押収


……


黒羽堂の拠点が、まるで狙い撃ちされたドミノのように、わずか30分足らずで次々と崩壊していく!


相手は強大なだけでなく、情報も精密極まりなく、タイミングはまさに完璧だった!


これは明らかに、長期間にわたって計画された、組織ぐるみの全方位からの仕掛けだ!


ソファに崩れ落ち、全身が冷や汗にまみれた夜王。


かつてない恐怖が彼を完全に飲み込んだ。その時、彼は悟った――自分が粉々に打ち砕かれるような触れてはならない人物に手を出したのだ!


冷たい電子音の背後には、想像もできない恐怖の存在がいるのだ!


「ボ、ボス…それとこちら……」


もう一人の部下が、血に濡れた包みを震える手で差し出した。


中にはまだわずかに震えるスマホと、1枚の紙切れ。


スマホの画面では動画が再生されていた。


そこには、救出された島崎と内通者。


顔中腫れ上がり、震える声でカメラに向かって「黒羽堂」が芸能人を騙し、動画を撮影して脅迫していた手口を暴露し、さらに複数の警察・税務職員の贈収賄リストまでも供述していた!


彼らを地獄へ叩き落すに十分な証言だった!


紙にはただ一行の言葉。


「公開謝罪して、自首せよ。さもなくば、人間をやめるんだな。さぁ、選べ」

紙と動画、交互に目をやると、夜王の抵抗する意志が崩れ落ちた。


相手は、俺達を、「黒羽堂」という組織を、完全にこの世界から消し去る力を持っているのだ。


数時間後、ネットを爆発させるニュースが流れる。


速報:「黒羽堂社長、緊急会見を開き、長年の違法盗撮・合成・脅迫行為を認め、被害者・小倉ユウナおよび世間に謝罪。会社は即日解散、社長と複数幹部が警視庁に出頭」


世論は騒然!


「純白花蕾」のファンは激怒し、小倉ユウナへの同情が一気に高まった。


スターライト・エンターテインメントの株価は一時急落するも、謝罪が始まると反発上昇しはじめた。


霞区・神代邸の書斎。


浩一はニュース画面の夜王の犬のような謝罪姿に、何の感情も見せなかった。


浅野茜が1枚の報告書を彼の前に置く。


「佐藤顧問、事態は収束しました。黒羽の幹部たちはすべて“相応の”裁きを受けます。小倉ユウナ動画の元本ファイルと全バックアップは物理的に破棄済みです。スターライト社長が下に来ており、直接御礼と…神代グループとの再契約を希望しています」


「待たせておけ」


淡々と答える浩一は、指先でタブレットの画面をスライドさせ、神代グループのアカウント通知を見た。


任務完了:荊棘の試練(芸能スキャンダルの収束)

報酬:2,000万円 支給済現在残高:*** 円**


二千万が入金され、以前送金された金額を合わせると、浩一の資産は彼自身さえも戸惑うほどの数字に達していた。


だが、そんな冷たい数字よりも、能力が解放されたことで得た万能感の方が遥かに魅力的だった。


書斎の扉が無音で開き、凛が入ってくる。


彼女はよりリラックスした月白色のシルクガウンに着替え、髪もゆるくまとめており、先ほどよりも柔らかく妖艶な雰囲気を纏っていた。


彼女は浩一の隣に近づき、タブレットの画面を一瞥して、満足そうに微笑む。


「見事ね、佐藤さん。的確で面倒を残さない。こういう棘こそ、私が求めていたものよ」


彼女は極めて近くに寄り、シルクの裾が浩一の手の甲をかすめた。冷たく滑らかな感触と、独特な香りが残る。


「でも、一つだけ気になることがあるわ」


凛は首を傾け、真っ直ぐ浩一の目を見つめた。


「どうやってドッグハウスを正確に見つけたの?それに、どうして“夜王”のような男の組織が、どうして数時間で崩壊したの?脅しただけじゃ、説明がつかないわ」


浩一の胸中に緊張が走る。彼は【微表情分析】と神代の情報網、そしてシステムがもたらす冷酷な判断力で“とどめの一撃”を完成させたのだが、詳細までは語れない。


言葉を選ぼうと浩一が考えを巡らせていた時、凛の細い指が額にそっと触れた。


指先は冷たく、奇妙なエネルギーを含んでいた。


「ここ…でしょ?」


低い囁くよう声で、その瞳は頭を透かして覗き込もうとしていた。


「その常識を超えた“直感”……それと、あなたのポケットのコインが、やけに騒がしいのも気になるのよ」


――ぶぅん!


凛の指先が浩一の額に触れた瞬間、彼のポケットの中にある鬼札コインが、まるで火花を発するかのようにカタカタ動き始めた!


同時に、そのコインから、冷たく、凶暴な意志が電流のように浩一の脳へと流れ込み、強烈な警告と拒絶の衝動を叩きつけてきた!


【警告!高次元精神探知を感知!防御を起動します!】

【予備エネルギー消費:1%】


浩一の体がピクリと震えた!


魂の深層から湧き上がる凍てつくような拒絶反応が爆発したかのように、彼は無意識のうちに一歩後ずさりし、視線が冷徹さを帯びた。


凛の指は空中で止まり、美貌の主が初めて驚愕の表情を浮かべた。


彼女ははっきりと感じ取った――自分の“精神探知”の意念が、氷の荊棘が無数に生えた壁のようなものにぶつかり、弾き返されたのだ。


しかも、その“棘”は、逆に刺すような痛みを伴って跳ね返してきた!


「面白い……」


目に浮かんだ驚きは、やがて獲物を見つけた捕食者のような興味へと変わった。


「どうやら、その“コイン”……私が思っていた以上に“気難しい”みたいね」


怒るどころか、彼女はむしろ愉悦と占有欲を感じさせる笑みを浮かべて笑った。


そんな最中、浅野茜の持つ端末が突如、鋭い警報音を発した!

真っ赤なドクロマークが表示され、最高機密レベルの情報が浮かび上がる。


浅野茜の顔色が一変した。


「凛様!緊急事態です!」


「白狐が動きました!京都で進行中の“月読神社プロジェクト”のチームが、嵐山からの帰路で“事故”に遭遇!警護車両3台が崖下に転落、チーフエンジニアは重体、データ端末が行方不明です!」


「なに……?」

凛の表情から、先ほどまでの色香も余裕も一瞬で消え失せた。

代わりに、氷のような殺気が彼女の全身からあふれ出す。部屋の温度が一気に下がったかのようだった!


「白狐……」

その名を呟く神代凛の声は、氷塊を削るような冷たさだった。


「とうとう、尻尾を出したのね」


彼女は勢いよく振り返り、鋭い視線を浩一へ向けた。


その眼差しからは、もはや探るような好奇心も、柔らかな誘惑も消えていた。そこにあるのはただ一つ――焦燥と決意に満ちた命令の気配!


「佐藤君、“荊棘”の試練は終わりよ。ここからが――本当の戦い」


「支度して。今すぐ、京都へ向かうわ」


「あなたの次の任務は――白狐を引きずり出すこと。どんな手段を使ってもいいわ、“月読の核”を取り戻しなさい!」


新任務:白狐の影

目標:24時間以内に京都到着、“月読神社”プロジェクトの襲撃事件を調査。

襲撃者(コードネーム:白狐)の正体を追跡・特定し、中枢データ端末“月読の核”を奪還せよ。

報酬:3,000万円 + パッシブスキル【弱点洞察(初級)】解放

(対象の心理/生理的弱点をかすかに察知できるようになる)


警告:「白狐」は極めて危険。特殊能力またはエリート傭兵の可能性あり。神代財団と長年敵対している影の勢力。

危険度:S級


京都。白狐。月読の核。三千万円。弱点洞察。


次々と頭に流れこむ情報が、浩一の脳をぐるぐると巡る。

横目で凛の氷のような横顔を見つめ、同時にポケットの中で鬼札コインが――白狐という言葉に呼応するかのように――震えるほどの警戒と、そして…奇妙な興奮を発しているのを感じていた。


棘の刃は、いま新たなる“獲物”に向かって動き出す。


浩一は乾いた唇を舐め、瞳には、これまで以上に、狂気すら孕んだ炎が宿っていた。


「了解」

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