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第4話


  ◇ ◇ ◇


 控え室に戻ったファルティアは、まず、盛大に溜息を吐いた。


「お嬢様」

 侍女が窘めるが、仕方がない。


「ここ数ヶ月、今日の宴の為の準備は、全部間違っていたようよ。うちも、それに気が付かなかったのですから、どうしようもないわね」

 けれど、なぜ、家のものたち全員が、この間違いに気付くことが出来なかったのだろうか。それが気になる。


(なにか、おかしい……?)


「ねえ、皇太子殿下とのやりとりは、どうしていたの?」

「書簡でやりとりしていたはずです」


「書簡、ね」

 それならば偽造されることも、途中ですり替えられることも考えられる……。


「けれど、お嬢様。皇太子殿下の印章で封蝋されていたのですよ? そんなものが、間違っているとは思えません」


 ぞっ、とした。

 これが事実ならば、大問題だ。


(皇室の印章を偽証すれば、犯罪だわ……)


「……ちょっと、一度家へ行って、その時の書簡は厳重に保管しておくように言いつけて頂戴。そうね……『今日の宴で身につけようと思っていた腕輪を忘れてしまったから、取りに行く』ということでおねがい」


 ここは皇宮だ。簡単には、出入りできない。理由が必要だった。


「畏まりました」

 まずは、私服に着替えて、ファルティアは、溜息を吐く。

 国を挙げての祝祭。その華やかな舞台で、ファルティアを陥れようとして動いている、誰かがいる。


(はあ……一体何なのよ……)

 溜息しか出てこない。


 皇太子の機嫌は悪い。敵があちこちから出てくる。皇太子の印章を偽造してまで、ファルティアを陥れようと画策しているような、危険な人たちがいるというのも、腹立たしい。


「今日は、絶対に失敗は出来ないわ。あと、今日、ここで起きたことについて、お母様とお父様にも報告をして置いて頂戴。それと、お兄様にも」


 これ以上、問題が起きるようならば、ファルティア一人ではなく、家全体の問題になりかねない。早めに情報は共有しておくべきだった。

 頭が痛いことこの上ないが、仕方がない。


「問題は山積みだけど、むしろ今は、宴席で仕掛けられる前に解って良かったと思った方が良いわね」


 とりあえず、少しでも前向きな気持ちでいようと思いつつ、ファルティアは皇太子の顔を思い出していた。

 美しい顔だったが、そこに乗った、侮蔑にも似た不機嫌の理由は、全く分からなかった。


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