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10話 街での遭遇 -1-

「では、アレ分のお金です」

「あ、……ありがとう。買ってくる」


 遠ざかっていくアイナさんを見送り、その場にうずくまる。


 だはぁぁぁぁぁあああ…………緊張したぁ……


 街に着いたボクたちは真っ先にアイナさんの私服を買いに行った。

 ……えぇ、女性用品店へ。

 なに、あの空間!?

 物凄く居づらかったんですけど!?


 小奇麗な格好をした店員さんがボクに「彼氏さん?」とか言うから、それからずっっっっっと変な空気がまとわりついて、「これ似合うかな?」とか「試着してみるね」とか「こっちの色もいいんじゃない?」とか、そんなの一切なし!

 黙々と、終始無言で、目についた服のサイズだけ確認してサクサクと買い物を終え、試着室を借りてボクの服から新しい服に着替えて、即退散してきましたとも!


 ……あの店には、もう行けない。


「武器屋さんも、滞在時間短かったなぁ……」


 アイナさんは、まるで剣に呼ばれるかのように一本の剣の前に立ち、「……これで」と即決してしまった。

 なんでも、知っている鍛冶師の作品らしく、信頼出来るからとのこと。

 見ただけで分かるんだなぁ、そういうの。

 それで、同じ鍛冶師の打った槍があったのでボクはそれを購入した。


 ボクの場合は、槍の良し悪しに関わらず扱いきれていないから、逆になんだっていいのだ。


 そして、今ここで別れたわけだけれど……疲れた。

 ほとんど会話がなかった。

 ……アイナさん、退屈していなかっただろうか。いや、してるよねぇ。

 これじゃ、ただの買い出しだ。デートじゃない。


「もっと、ボクがリードしなきゃ…………つまらない男だと思われる」


 ウィットに富んだジョークで盛り上げてみるかな。



 先日、街で見ず知らずの女性に声をかけられたんだ。

「あんた、ちょっと顔を貸しなさい」って。

 だからボクはこう言ってやったのさ。

「首から下は別料金だよ」――ってね☆



 …………ヤバい。吐き気がするほどつまらない……

 今しばらく、この地面の上でうずくまっていよう。


「ねぇ」


 四肢を突いてうな垂れているボクの頭上から、聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。

 重たい頭を持ち上げると、見ず知らずの女性がボクの目の前に立っていた。

 剥き出しになった太ももがすぐ目の前にある。


「あんた、ちょっと顔貸しなさい」

「首から下は別料金だよ」

「ぶふっ! …………………………くくっ」


 あ、ウケた。


「ごほん、ごほん! すぅ…………はぁ………………笑ってないから」


 なんか負けず嫌いだ、この人!?


 改めてその女性を見てみる。

 明るい茶髪は短くカットされ、毛先が跳ねるように遊んでいる。

 服装は動きやすさを重視したような軽装で、袖のないシャツの上にゆったりとした上着を羽織っている。上着の隙間から丸い肩や脇がチラ見えして少し色っぽい。

 膝までを覆うブーツとショートパンツの間で眩いくらいに白い太ももが光を反射している。

 そんな、やや露出多めの大人っぽい格好をしている反面、少しつり上がった目は大きくてどこか幼さを感じさせる。


 そして、「えっ…………えっ!?」と、思わず二度見してしまうくらいに胸が真っ平らでるぶしゅっ!


「……なに二度見してくれてんのよ?」


 ロングブーツの底がボクの顔に押し当てられる。……すみません。ちょっと驚いてしまったもので。「えっ、こんな薄い生地なのに!?」って。


 上着を羽織り直して、胸元をしっかりと隠しつつ、絶対領域の女性がボクの目の前にしゃがみ、いまだ四肢を突いたままのボクの顔を覗き込んでくる。


「あんた、『けんき』のなんなわけ?」

「けんき?」

「さっき見かけたのよ。あんたが『けんき』と一緒に武器屋に入っていくところをね」


 けんき……あっ! 『剣姫』。

 アイナさんが呼ばれていたというあまり好ましくない呼び名……


「『けんき』って、『剣』の『姫』ですかね?」

「は? なに言ってんのあんた」


「ちょーウケる」と、彼女はけらけらと笑った。

 ……少し、気分が悪くなった。


「あいつは『姫』なんかじゃない。あいつはね……『鬼』よ」






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