「では、アレ分のお金です」
「あ、……ありがとう。買ってくる」
遠ざかっていくアイナさんを見送り、その場にうずくまる。
だはぁぁぁぁぁあああ…………緊張したぁ……
街に着いたボクたちは真っ先にアイナさんの私服を買いに行った。
……えぇ、女性用品店へ。
なに、あの空間!?
物凄く居づらかったんですけど!?
小奇麗な格好をした店員さんがボクに「彼氏さん?」とか言うから、それからずっっっっっと変な空気がまとわりついて、「これ似合うかな?」とか「試着してみるね」とか「こっちの色もいいんじゃない?」とか、そんなの一切なし!
黙々と、終始無言で、目についた服のサイズだけ確認してサクサクと買い物を終え、試着室を借りてボクの服から新しい服に着替えて、即退散してきましたとも!
……あの店には、もう行けない。
「武器屋さんも、滞在時間短かったなぁ……」
アイナさんは、まるで剣に呼ばれるかのように一本の剣の前に立ち、「……これで」と即決してしまった。
なんでも、知っている鍛冶師の作品らしく、信頼出来るからとのこと。
見ただけで分かるんだなぁ、そういうの。
それで、同じ鍛冶師の打った槍があったのでボクはそれを購入した。
ボクの場合は、槍の良し悪しに関わらず扱いきれていないから、逆になんだっていいのだ。
そして、今ここで別れたわけだけれど……疲れた。
ほとんど会話がなかった。
……アイナさん、退屈していなかっただろうか。いや、してるよねぇ。
これじゃ、ただの買い出しだ。デートじゃない。
「もっと、ボクがリードしなきゃ…………つまらない男だと思われる」
ウィットに富んだジョークで盛り上げてみるかな。
先日、街で見ず知らずの女性に声をかけられたんだ。
「あんた、ちょっと顔を貸しなさい」って。
だからボクはこう言ってやったのさ。
「首から下は別料金だよ」――ってね☆
…………ヤバい。吐き気がするほどつまらない……
今しばらく、この地面の上でうずくまっていよう。
「ねぇ」
四肢を突いてうな垂れているボクの頭上から、聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。
重たい頭を持ち上げると、見ず知らずの女性がボクの目の前に立っていた。
剥き出しになった太ももがすぐ目の前にある。
「あんた、ちょっと顔貸しなさい」
「首から下は別料金だよ」
「ぶふっ! …………………………くくっ」
あ、ウケた。
「ごほん、ごほん! すぅ…………はぁ………………笑ってないから」
なんか負けず嫌いだ、この人!?
改めてその女性を見てみる。
明るい茶髪は短くカットされ、毛先が跳ねるように遊んでいる。
服装は動きやすさを重視したような軽装で、袖のないシャツの上にゆったりとした上着を羽織っている。上着の隙間から丸い肩や脇がチラ見えして少し色っぽい。
膝までを覆うブーツとショートパンツの間で眩いくらいに白い太ももが光を反射している。
そんな、やや露出多めの大人っぽい格好をしている反面、少しつり上がった目は大きくてどこか幼さを感じさせる。
そして、「えっ…………えっ!?」と、思わず二度見してしまうくらいに胸が真っ平らでるぶしゅっ!
「……なに二度見してくれてんのよ?」
ロングブーツの底がボクの顔に押し当てられる。……すみません。ちょっと驚いてしまったもので。「えっ、こんな薄い生地なのに!?」って。
上着を羽織り直して、胸元をしっかりと隠しつつ、絶対領域の女性がボクの目の前にしゃがみ、いまだ四肢を突いたままのボクの顔を覗き込んでくる。
「あんた、『けんき』のなんなわけ?」
「けんき?」
「さっき見かけたのよ。あんたが『けんき』と一緒に武器屋に入っていくところをね」
けんき……あっ! 『剣姫』。
アイナさんが呼ばれていたというあまり好ましくない呼び名……
「『けんき』って、『剣』の『姫』ですかね?」
「は? なに言ってんのあんた」
「ちょーウケる」と、彼女はけらけらと笑った。
……少し、気分が悪くなった。
「あいつは『姫』なんかじゃない。あいつはね……『鬼』よ」