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10話 街での遭遇 -4-

 アイナさんから放たれる気迫のようなものに、世界が歪む。

 これが、スキルマと言われる人の力……なの、だろうか……

 ボクは、何も言えずに呆然としてしまった。


 その迫力を真正面から浴びせられているキッカさんは……大丈夫なのだろうか?


「ふ……ふふん! よ、ようやく会えたわね、剣鬼!」

「…………」


 気丈にも、胸を張りアイナさんと対峙するキッカさん。

 さすがはアイナさんと同じスキルマ、といったところだろうか。

 徐々に元の調子を取り戻し、自分のペースへと場の空気を持っていく。


「まさか、このあたしの顔を忘れたとは言わせな……」

「誰?」

「せめて最後まで言わせろぉー!」


 言わせてもらえなかったのはキッカさんの方だったようだ。

 うん。なんというか……アイナさんらしい気がする。人に執着とかしなさそうだし。


「あの不遇の惜敗から一年! あたしはレベルを上げまくってスキルマになった! 今日こそ、本当の決着をつけてやる! 勝負しなさい、剣鬼!」


 敗北を都合のいいように言い換えている。

 たぶん、この人はアイナさんには勝てないんだろうなぁ、一生。

 そんな気がした。


「……勝負する理由がない」

「あんたになくても、あたしにはあるのよ!」

「なら、一人で勝負をしていてほしい」

「一人で出来るかぁ!」


 先ほどボクに投げつけたダガーとは別の、黒い刃のナイフを取り出し構える。

 なんか強そうな武器だ。


「……あんたに、あたしのトップスピードが捉えられるかしら?」


 シーフという職業上、素早さに自信があるようだ。

 アイナさんもすごく速いけれど、素早さ特化っぽいシーフのスキルマと比べるとどうなのだろう? 分が悪いんじゃないだろうか?


「あの、アイナさん……」

「大丈夫」


 声をかけると、こちらに柔らかい笑みを向けてくれる。


「結構悩んだけれど、予算内でちゃんと五枚買えた」

「パンツの話してます、今!?」

「お……大きい声で言わないで、ほしい……」

「あぅ……ご、ごめんなさい……」

「…………いい。ゆるす」

「えへへ……どうも」

「人を無視してイチャイチャすんなぁ! そして、『イチャイチャ』って言葉を聞いてニヤニヤすんなぁ!」


 遠くでキッカさんが吠えている。

 え~、イチャイチャとかしてないよぉ~、もぉ~、や~め~ろ~よぉ~、恥ずかしぃ~だろぉ~。


「いい、剣鬼!? あたしと勝負しないと、その男がどうなっても知らな……」



 ドンッ!



 ――と、大気を打ち破るような爆音が轟いた。

 同時に、空気が震えた。一瞬、感電したのかと思うほど「ビリッ」っときた。


「…………シェフに危害を加えるようなことがあれば………………」


「あれば」の後、アイナさんの声は聞こえなかった。けれど、何かを呟いたように口だけが動いていた。

 真正面からそれを見ていたのであろうキッカさんには、アイナさんが何を言ったのかが分かったようで――


「……参りました」


 向こうの方で土下座していた。

 うん。なんとなくね、こうなるんじゃないかって気がしたんだよね。うん。






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