アイナさんから放たれる気迫のようなものに、世界が歪む。
これが、スキルマと言われる人の力……なの、だろうか……
ボクは、何も言えずに呆然としてしまった。
その迫力を真正面から浴びせられているキッカさんは……大丈夫なのだろうか?
「ふ……ふふん! よ、ようやく会えたわね、剣鬼!」
「…………」
気丈にも、胸を張りアイナさんと対峙するキッカさん。
さすがはアイナさんと同じスキルマ、といったところだろうか。
徐々に元の調子を取り戻し、自分のペースへと場の空気を持っていく。
「まさか、このあたしの顔を忘れたとは言わせな……」
「誰?」
「せめて最後まで言わせろぉー!」
言わせてもらえなかったのはキッカさんの方だったようだ。
うん。なんというか……アイナさんらしい気がする。人に執着とかしなさそうだし。
「あの不遇の惜敗から一年! あたしはレベルを上げまくってスキルマになった! 今日こそ、本当の決着をつけてやる! 勝負しなさい、剣鬼!」
敗北を都合のいいように言い換えている。
たぶん、この人はアイナさんには勝てないんだろうなぁ、一生。
そんな気がした。
「……勝負する理由がない」
「あんたになくても、あたしにはあるのよ!」
「なら、一人で勝負をしていてほしい」
「一人で出来るかぁ!」
先ほどボクに投げつけたダガーとは別の、黒い刃のナイフを取り出し構える。
なんか強そうな武器だ。
「……あんたに、あたしのトップスピードが捉えられるかしら?」
シーフという職業上、素早さに自信があるようだ。
アイナさんもすごく速いけれど、素早さ特化っぽいシーフのスキルマと比べるとどうなのだろう? 分が悪いんじゃないだろうか?
「あの、アイナさん……」
「大丈夫」
声をかけると、こちらに柔らかい笑みを向けてくれる。
「結構悩んだけれど、予算内でちゃんと五枚買えた」
「パンツの話してます、今!?」
「お……大きい声で言わないで、ほしい……」
「あぅ……ご、ごめんなさい……」
「…………いい。ゆるす」
「えへへ……どうも」
「人を無視してイチャイチャすんなぁ! そして、『イチャイチャ』って言葉を聞いてニヤニヤすんなぁ!」
遠くでキッカさんが吠えている。
え~、イチャイチャとかしてないよぉ~、もぉ~、や~め~ろ~よぉ~、恥ずかしぃ~だろぉ~。
「いい、剣鬼!? あたしと勝負しないと、その男がどうなっても知らな……」
ドンッ!
――と、大気を打ち破るような爆音が轟いた。
同時に、空気が震えた。一瞬、感電したのかと思うほど「ビリッ」っときた。
「…………シェフに危害を加えるようなことがあれば………………」
「あれば」の後、アイナさんの声は聞こえなかった。けれど、何かを呟いたように口だけが動いていた。
真正面からそれを見ていたのであろうキッカさんには、アイナさんが何を言ったのかが分かったようで――
「……参りました」
向こうの方で土下座していた。
うん。なんとなくね、こうなるんじゃないかって気がしたんだよね。うん。