「ナイフをいくつも持ってますよね? だから、好きなのかなって」
「ナイフ? ……なの、これ?」
「はい」
がさがさと、包装紙をはぎ取っていくキッカさん。
うんうん、性格が出てるな。アイナさんとは対照的だ。
「へぇ……見たことないナイフね」
きっちりと鞘にしまわれた、全長40センチ程のナイフ。
その柄を握って、キッカさんがナイフを鞘から抜き放つ。
――と、中から茶色い刃……のような物が姿を現す。
「ナイフ型に加工されたスルメです!」
「スルメ!?」
「はい! 干したイカです!」
「なんで!?」
「日光に当てることでイカの中のうまみと栄養素が……」
「干す理由じゃなくて! なんでこれなの!?」
「好きかと思って!」
「ナイフが? イカが!?」
スルメナイフを持ってどうしたもんかというような顔をするキッカさん。
あ、磯の香りがする。
「少し特殊なナイフ屋さんがありまして。抱きナイフとソレと迷ったんですけど」
「抱きナイフってなによ!?」
「抱っこして眠る用のナイフです。1.5メートルくらいある」
「危ないし、それもうバスタードソードじゃない!」
「で、大きいナイフは重くて持って帰れなかったので、そっちにしました」
「普通のナイフはなかったの!?」
「ありましたよ。でもボク、ナイフの善し悪し分からないので」
眉と眉の間を「ぐりぃ~ん!」と押さえて、キッカさんが燃え尽きたようにうな垂れる。
なんだろう? あまり、よろこんで……ない?
がっくりうな垂れるキッカさんに、アイナさんがぬいぐるみを抱えて近付いてくる。
肩にぽんと手を置き、親指を立てた手を突きつける。
「キッカ。それはイカソード」
「スルメだよ!」
「すごく強い!」
「そんなわけあるか!」
アイナさんのイカへの信頼は高い。
なぜかは、分からないけれど。
「まぁ、普段使いのナイフなら自分でそろえてあるし……こんなんでいっかな」
吹っ切れたような清々しい笑みを浮かべる。
「ま、センスはさておき。ありがとね、タマちゃん」
スルメの刃で額をぐりっとされる。
けれど、痛みはなくて、ちょっとだけむずがゆかった。
プレゼントをして喜ばれるって、すごく……嬉しい。
アイナさんは、何かを抱いて眠ると落ち着くようだし、大きめのぬいぐるみをあげたかった。
キッカさんとは、これから仲良くなっていきたいと思えたし、なんだかんだ、笑っているキッカさんは素敵な女性に見える。
【歩くトラットリア】が賑やかになって、ボクはとても楽しいと思えた。
このボクの嬉しさや喜びを、少しでも伝えることが出来たら、二人にも同じように感じてもらえたら、ボクはきっと幸せなのだと言えるだろう。
「よく似合ってますよ、二人とも」
「そ、…………そう、だろうか? 変ではない、かな?」
「……スルメナイフが似合うって言われてもねぇ……」
「似合ってますって、本当に」
「そ、……そうか。…………うれしい」
「いや、だから、これが似合うって微妙なんだってば……」
「喜んでもらえて、ボクも嬉しいです」
「…………うん」
「あたしとも会話しろぉ!」
キッカさんがなんか叫んでいたけれど、それはひとまず置いておいて、アイナさんが喜んでくれてよかった。
これから、もっともっと仲良くなっていけたらいいなと、心底思う。
「のぅ、ボーヤや。ワシへのお土産は……」
「さぁ、開店準備を始めましょう! お客様は、いつご来店されるか分かりませんからね!」
手を叩き、気合いを入れて、本日の営業を開始する。