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夜。
一日が終わり、眠る時間。
本当に、今日は楽しかった。
キッカと二人で買い物に行ったのも、新鮮で面白かった。
試着というものを、生まれて初めてした。身に着けた物を、それも素肌に付けた下着を返品してもよかったのだろうか。
そしてキッカは、自分の物をすごく真剣に選んでいた。あそこの境地には、まだまだ及びそうもない。普通の女子は、あんな感じで買い物をするのだろうな、きっと。
そして、シェフが贈り物をくれた。
嬉しくて、驚いて、不意に泣きそうになって……それ以上に満たされた気持ちになったから、涙は零れなかったけれど……本当に嬉しかった。
いつもならすぐに名前を付けるところなのだが、なんというか……一世一代の素晴らしい名前でなければいけない気がして……プレッシャーを感じる。
少し熟考しようと思う。今回は。
なので、しばらくは……
「おやすみなさい、……シェフ」
そう呼ぶことにした。……シェフには、内緒にしておくつもりだけれど。
黒い毛の可愛い羊。
どことなくシェフに似ていて……可愛い。
そんな可愛いぬいぐるみを机の上に置いて、ベッドへ潜り込む。
先に寝ていたキッカを起こさないように、そっと……キッカを抱きしめる。ぎゅっ。
「って、こら!」
「すまない。起こしてしまったか?」
「そこ以外に謝るところあるでしょうが!?」
「…………いや、特には」
「あるわ!」
腕の中でキッカが吠える。
夜なのだから静かにしてもらいたい。シェフたちが目を覚ましたら気の毒だ。
「キッカ……しぃ~」
「『しぃ~』じゃなくて、離しなさいよ!」
「残念ながら、わたしは何かを抱きしめていないと眠れないのだ」
「ぬいぐるみもらったでしょうが!」
「しかし…………万が一にもよだれを垂らしてしまったら、困る」
「あたしに垂らす方がよっぽど困るでしょうが!? っていうか、困れ!」
キッカなら、洗えば大丈夫。
でもぬいぐるみは傷む。それはダメ。
「キッカも、今日もらったものをよだれまみれにしてはいけない」
「いや、なるでしょう!? スルメよ? よだれまみれ上等じゃない!」
「贈り物は、大切に」
「それ、贈る方にも問題あるから!」
まだまだ何かを言い足りない様子のキッカ。
けれど、わたしは温かいベッドと、抱き心地のいいキッカの温もりを感じて……すぐ眠りへと落ちていった。
あぁ、本当にここは――居心地がいい。
「寝るなぁー! そしてもうすでにちょっとよだれ出始めてるから!? 起きろ、剣鬼! 剣鬼ぃー!」
朝と同じような声を聞いて、わたしはその日を終えた。