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16話 教えて、エッくん -1-

「剣技を教えてほしい」


 アイナさんに、無茶を言われた。


「えぇ……っと、剣士のスキルマ、なんですよね? スキルとかいうのを全部マスターした」

「うむ」

「……ボクに何を教えろと?」

「名前は分からないのだが……」


 なんとか、頭の中にあるイメージを表現しようとしているのだろう、アイナさんの手がむにむにと動き出す。軽く握った左右の手で空中をかくように。

 …………にゃーん。


 はっ!?

 なんかネコっぽい仕草だったからつい。


 ……にゃーん。


 ヤバいっ、可愛いっ!


「……こう…………しゅばたたたたたっ……みたいな」


 動作と違って音激しい。

 しゅばたたたた……とは?


「対象物を塵芥へと帰す妙技……」

「それって、たまにタマちゃんがやってるやつでしょう?」


 ネコっぽい仕草をするアイナさんの背後から、ネコっぽい顔をしたキッカさんが顔を覗かせる。


「すみません。お二人同時に『にゃーん』って言ってくれませんか?」

「は? 普通に嫌よ」

「……にゃーん」

「素直だな、剣鬼!?」

「いや、これで教えてもらえるならお安い御用かと……こんなものが礼になるのかは、甚だ疑問ではあるが」

「いや…………物凄く満足そうよ。あの緩みきった顔……」


 キッカさんがなんか言いながら呆れた顔でこっち見てるなぁ~。

 そんなことより、今日はネコの日、ネコ記念日にしよう!


「特別な日にねこまんまを食べる、そんな日にしよう」

「なによ、ねこまんまって?」

「炊いた白米に鰹節とみそ汁をぶっかけるんです」

「……なんかいろいろ分かんないけど、侘しい料理ね。おいしいの?」

「食べたことありません」

「ないのかよ!?」


 キッカさんらしくない口調で突っ込まれた。

 なんとなく、思わず出た言葉感がすごい出てる。そんなに意気込んで突っ込むようなことでもないと思うんだけど。


「ね、ねこまんま剣を教えてほしい!」

「聞いた言葉をすぐ吸収すんな! あんたが話すとややこしくなるのよ!」


 ねこまんま剣…………可愛い。なんとかして編み出せないだろうか。

 魔獣との戦いで、アイナさんが必殺技の名前を叫ぶ。

「ねこまんま剣! ……にゃーん!」

 その瞬間、世界が幸せに包まれて、魔獣もなんだか和んでる。

 はっ!? ズルいぞ、魔獣! アイナさんの発する和みを真正面から受け止めるなんて!

 アイナさんの和み、ボクも欲しい!

 いやむしろ、誰にも渡さない!

 そして真正面へ滑り込むボク。

 ザシュー。

 ねこまんま剣炸裂ー。

 ボク、ザックー、ブッシュー…………ぱた。


「……やめましょう。ボクが、今、死にました」

「どんな想像してたのよ? 顔真っ青でほっぺただけめっちゃ赤いわよ……器用ね」


 くそ。

 寒気が走るのににやにやが止まらない。

 どうしたいんだ、ボクは。


「ダメ……だろうか?」


 アイナさんがしょぼーんと肩を落とす。



 しょぼーん、いただきましたぁ!



「ありがとうございます!」

「えっ……な、なにが、だろうか?」

「この御恩は一生忘れません!」

「あの、シェフ……?」

「放っときなさいよ。……どうせとてつもなくくだらないことだから」


 あぁ、しょぼーんはいい。

 思わず抱きしめたくなるほど、いい!

 連れて帰りたい。ここがボクの家だけれども!

 それでも連れて帰りたい!


「いいから教えてあげなよ。こう、トントンするヤツ」


 キッカさんが握った拳をふたつ揃え、右だけを上下に動かしてみせる。

 わー、ネコみたい。うん、かわいいかわいい。


「なんか視線の温度が全然違うんだけど!?」

「そんなことないですよー」

「全然いいよ? 全然いいんだけど、ムカつくわね、あんた!」


 と、怒りながらも右手をトントン上下させるキッカさんを見て……あぁ、なるほど。と理解する。でもあれ、剣技……かな?







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