「剣技を教えてほしい」
アイナさんに、無茶を言われた。
「えぇ……っと、剣士のスキルマ、なんですよね? スキルとかいうのを全部マスターした」
「うむ」
「……ボクに何を教えろと?」
「名前は分からないのだが……」
なんとか、頭の中にあるイメージを表現しようとしているのだろう、アイナさんの手がむにむにと動き出す。軽く握った左右の手で空中をかくように。
…………にゃーん。
はっ!?
なんかネコっぽい仕草だったからつい。
……にゃーん。
ヤバいっ、可愛いっ!
「……こう…………しゅばたたたたたっ……みたいな」
動作と違って音激しい。
しゅばたたたた……とは?
「対象物を塵芥へと帰す妙技……」
「それって、たまにタマちゃんがやってるやつでしょう?」
ネコっぽい仕草をするアイナさんの背後から、ネコっぽい顔をしたキッカさんが顔を覗かせる。
「すみません。お二人同時に『にゃーん』って言ってくれませんか?」
「は? 普通に嫌よ」
「……にゃーん」
「素直だな、剣鬼!?」
「いや、これで教えてもらえるならお安い御用かと……こんなものが礼になるのかは、甚だ疑問ではあるが」
「いや…………物凄く満足そうよ。あの緩みきった顔……」
キッカさんがなんか言いながら呆れた顔でこっち見てるなぁ~。
そんなことより、今日はネコの日、ネコ記念日にしよう!
「特別な日にねこまんまを食べる、そんな日にしよう」
「なによ、ねこまんまって?」
「炊いた白米に鰹節とみそ汁をぶっかけるんです」
「……なんかいろいろ分かんないけど、侘しい料理ね。おいしいの?」
「食べたことありません」
「ないのかよ!?」
キッカさんらしくない口調で突っ込まれた。
なんとなく、思わず出た言葉感がすごい出てる。そんなに意気込んで突っ込むようなことでもないと思うんだけど。
「ね、ねこまんま剣を教えてほしい!」
「聞いた言葉をすぐ吸収すんな! あんたが話すとややこしくなるのよ!」
ねこまんま剣…………可愛い。なんとかして編み出せないだろうか。
魔獣との戦いで、アイナさんが必殺技の名前を叫ぶ。
「ねこまんま剣! ……にゃーん!」
その瞬間、世界が幸せに包まれて、魔獣もなんだか和んでる。
はっ!? ズルいぞ、魔獣! アイナさんの発する和みを真正面から受け止めるなんて!
アイナさんの和み、ボクも欲しい!
いやむしろ、誰にも渡さない!
そして真正面へ滑り込むボク。
ザシュー。
ねこまんま剣炸裂ー。
ボク、ザックー、ブッシュー…………ぱた。
「……やめましょう。ボクが、今、死にました」
「どんな想像してたのよ? 顔真っ青でほっぺただけめっちゃ赤いわよ……器用ね」
くそ。
寒気が走るのににやにやが止まらない。
どうしたいんだ、ボクは。
「ダメ……だろうか?」
アイナさんがしょぼーんと肩を落とす。
しょぼーん、いただきましたぁ!
「ありがとうございます!」
「えっ……な、なにが、だろうか?」
「この御恩は一生忘れません!」
「あの、シェフ……?」
「放っときなさいよ。……どうせとてつもなくくだらないことだから」
あぁ、しょぼーんはいい。
思わず抱きしめたくなるほど、いい!
連れて帰りたい。ここがボクの家だけれども!
それでも連れて帰りたい!
「いいから教えてあげなよ。こう、トントンするヤツ」
キッカさんが握った拳をふたつ揃え、右だけを上下に動かしてみせる。
わー、ネコみたい。うん、かわいいかわいい。
「なんか視線の温度が全然違うんだけど!?」
「そんなことないですよー」
「全然いいよ? 全然いいんだけど、ムカつくわね、あんた!」
と、怒りながらも右手をトントン上下させるキッカさんを見て……あぁ、なるほど。と理解する。でもあれ、剣技……かな?