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16話 教えて、エッくん -3-

【ファームフィールド】は、【ハンティングフィールド】のような場所であり、主に野菜や果物を収穫することが出来る場所だ。

 もっとも、【ハンティングフィールド】のような危険はそうそうない。……まぁ、たまにあるけど。


「わたしも行きたい。えっと……その、『ガールフレンド』に!」

「せめて一文字くらい掠らせなさいよ!? あんた、鼓膜の前に蓋でも付いてんじゃないの!?」


 キッカさんの叫びにアイナさんが耳を押さえる。

 大丈夫。聞こえてはいるらしい。

 ならば、アイナさんが言葉を間違えるのは聞き慣れていないから。ただそれだけに相違なく、であるならば、責められる謂れのないことで怒られているアイナさんをフォローすることこそがボクの使命!


「キッカさん。お師さんの部屋に『じゅじょうざぜんず』という物があります」

「え? じゅ……じゃじぇんじゅ? え、なに?」

「つまり、そういうことですよ」

「だから、なにが!?」


 聞き慣れない言葉という物は、得てして覚えにくい物なのです。

 ちなみに、漢字で書くと『樹上座禅図』となり、なんか大きな樹の上で座禅を組んでるお坊さんの絵ということになります。

 もっとも、お師さんの部屋にあるのは、無意味に薄着の美人巫女さんが濡れた巫女服を肌にぴったりと張りつけて樹の上で座禅しているという玄人向けの……いえ、常人には理解しがたい領域の趣味に傾倒した美術品ではありますが。


「耳に馴染まない言葉って、覚えにくいですよね」

「うむ、にくい」

「【ファームフィールド】くらいは覚えられるでしょう!?」


 またそうやって自分を基準に考える。

 たまにいるんですよね。自分が普通で、基準で、常識的だって主張する人。

 キッカさんを基準だとするなら、基準であるキッカさんよりも胸の大きな人、すなわち世界中の女性が巨乳だということに……っと、あの目を見ちゃいけない。あれは石化させられる目だ!


「と、とにかく、行きましょうか。そんなに面白いところではありませんけれど」

「うむ。野菜を――倒す!」

「あ、すみません。今回は戦闘はなしで」

「ない、のか?」


【ファームフィールド】はとても穏やかな空間だ。

 戦闘することは……そうそうない。たま~に、ミミズの魔獣とか出て来て食われかけますけれど。


 ――という説明をすると。


「なるほど。では、ミミズを倒すとまた【冷蔵庫】に?」

「いえ、それはないです」


 冷蔵庫に転移される物は食材だけだ。

 ミミズは食べない……よね? 言い切れはしないけれど、ボクはその料理法を知らない。ので、たぶん食べられない……と、思う。


「じゃあ、どうやって野菜を採るの? 盗む?」


 キッカさんの意見は実にシーフらしい発想ではあるけれど、そんな悪事は働かない。

 きちんと自分で育てるんですよ。普通に。農業のように。


「まぁ、実際行ってみましょう」

「百聞は一見に如かず! ……むふん!」

「……です、ね」


 どうやら覚えたらしい。

 いつか使ってやろうとずっと狙っていたのか、言い切ったアイナさんはとても満足げだった。







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