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16話 教えて、エッくん -5-

「それで、何をやればいいの?」

「わたしに出来ることがあれば、教えてほしい」


 やる気を見せる二人に、基本的な作業内容を伝える。


「まず、土を耕して、堆肥と混ぜて、畝を作って……というあたりまで出来ているのがこの場所です」


 今回、ここに出たということは、ここから先をやれということだろう。

 土起こしはとても大変だから、女性二人にやらせることにならなくてよかった。


「な~んだ。土起こしとか耕す方が性に合ってたのに」

「うむ。掘り返したり抉り取ったりするのは得意」


 ……ですよね。

 普通に考えて、軟弱なボクよりお二人の方が効率的に耕せますよね。

 ただアイナさん、抉り取るのは畑仕事には含まれませんからね。


「これから、種を蒔いて、水をやって……あとは、雑草を抜いたり、害虫や害獣を退治したりですかね」

「あ、はい! あたし退治係やる! 生き物係!」

「いえ、順番にみんなでやっていきましょう」


 そして、生き物係って、生き物を倒す係じゃない気がします。


「キャベツを植えると、キャベツのレベルが上がるんですよ」


 キャベツを植えて、キャベツのレベルを上げて、キャベツを収穫する。

 こうすることで、この【ファームフィールド】には一定数以上の作物が存在し続ける。

 大衆食堂として、食材を切らせるわけにはいかないからね。


 キャベツの種を渡し、種まきの方法をレクチャーしていく。

 故郷で作っていたキャベツは、最初に苗を育てるために温かいところで種まきをしたりしていたけれど、この【ファームフィールド】ではダイレクトに畝に種をまいていく。

 それでも立派に育ってくれるからありがたい。とう立ちする前にちゃんと実を付けてくれるし。

 あ、とう立ちっていうのは、茎や花が育ち始めて葉が硬くなることです。味が落ちます。その前に収穫しなければいけないんですが、その辺も、この【ファームフィールド】では気にする必要がなかったりします。

 素人でも美味しい野菜が作れる。さすが【歩くトラットリア】の魔法だ。


「まず、土に穴を開けます」

「「得意!」」

「あ、いえ。そんな全力じゃなくていいので、お二人とも武器をしまってください」


 ですから、『抉り取る』は項目に入ってませんってば。


「指で軽~く土をへこませてください」

「「得意!」」

「えぇ、あなたたちなら素手でも軽~く抉り取れそうですけども!」


 そうじゃないんです。

 もっと優しく、もっとマイルドに。


「第二関節くらいまででいいんです」

「第二関節…………ひとつ、ふたつ…………ヒジまでか」


 アイナさん、なんで関節の一つ目を手首から始めちゃったんですか!?

 そりゃ二つ目がヒジになりますよ。でも、それより先にまだありますよね、関節!?


「『指の』第二関節です」

「…………付け根?」

「なぜ親指!?」


 人差し指じゃないですかね、普通?

 いや、自分が普通だとか基準だとか考えるのはよくないと、さっき自分で思ったことじゃないか。

 自分の知識を常識だと考えるのはよそう。


「では、実際やってみますね」

「百聞は一見に如かず!」

「……と、いいますし」

「……むふん!」


 嬉しそうだなぁ、アイナさん。

 小鼻が広がっても可愛い。



 そうこうしながら、種まきをレクチャーして、ボクたちはそれぞれ別の畝に分かれて種まきを開始した。

 開始前にキッカさんが――


「剣鬼、どっちがたくさん蒔けるか勝負だ!」


 ――とか言い出したけれど、まぁ、たくさん蒔く分には問題ないだろう。

 経験値をいっぱい稼いで早く戻ろう。

 アイナさんに千切りを教えるために。


「必殺……分身種まきっ!」

「「すごいっ!?」」


 畝沿いにずらっと並ぶキッカさんが一斉に種まきを始める。

 以前【ハンティングフィールド】でも見た残像だ。……でもその技、種まきに使うために存在してるんじゃないと思うけどなぁ。まぁ、便利だから、いっか。



 アイナさんとキッカさんの協力のおかげで、ファームポイントはガンガン貯まり。

 キャベツは思いのほか早く収穫出来たのだった。







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