「んじゃあ、ちょっとレベルの高い方教えてあげるわよ」
「え、レベル上げちゃっていいんですか? こっちも出来てないのに」
「まぁ、剣鬼なら出来ると思うし、力加減とか考えるの苦手な剣鬼には、こっちの方が合ってるかもしれないしね」
そのもう一つの方法というものは、ボクには一層理解出来ないモノだった。
「オーラを残すのよ」
オーラときましたか。
まず、どうすればオーラが出せるのか、そこが知りたい。
「なるほど」
理解しちゃいましたね、アイナさん!?
え、出せるんですか!? あぁ、そういえば出してましたっけね、以前。
「ねぇ、タマちゃん。あたしのこと殴ってみてくれる?」
「え!? で、出来ませんよ、そんなこと!」
「いいからいいから」
「無理ですって」
「反撃しないよ?」
「そういうことじゃなくて! ……キッカさん、女の人ですから……痛いの、可哀想ですし」
「は……はぁ?」
キッカさんが目を丸く見開く。
「な、何言ってんの!? べ、べつに、タマちゃんに殴られたくらいじゃ痛くもないし、そもそも、殴られないし、あたしの方が断然強いし! そういうの差別だと思うな!」
「すみません。でも……女の子には、乱暴したくない……です」
「……女の子、とか…………あたし、ガラじゃないし…………」
「すみません」
「…………」
唇を閉じたままむにむにと動かし、キッカさんが明後日の方向を睨みつけている。
そこには誰もいないはずなのですが……何か見えているのでしょうか?
居心地の悪そうな、なんとも言えない表情をして黙ること数分。「あぁ、もう!」と、キッカさんが頭を掻き毟って声を上げる。
「じゃあ、タッチ!」
「タッチ、ですか?」
「そう。あたしの体にタッチしてみて」
体…………と、言われ、視線は自然と胸元へ……
「ちょっ!? どこ見てるのよ!?」
つるーん…………あ、いけない。視線が滑った。
「…………ちょっと。どこ見てるのよ? ねぇ? どこ?」
「あ、すみません。深い意味はないです」
ちょっと引っかかりがなかったもので、視線がすとーんと下まで落ちてしまいました。
あはは。ヤだなぁ、その怖い顔。
キッカさんは笑っていた方がステキですよ。ね、笑いましょう、スマイル、スマーイル…………怖いですって、その真顔!?
「えっと、じゃあ……タッチ、していいんですね?」
と、胸を見ながら問いかける。
「胸じゃないから! 当たり前でしょう!? 何考えてるのよ!?」
いや、一応、ここを見ておかないと怒られるかもしれないと思いまして。さっきすとーんと落ちたせいですっごい真顔になっていましたし。
決してボクが触りたいわけではなく、命を大切にする的な意味で。
「じゃあ、肩! あぁ、いやおデコにしよう! あたしのおデコにタッチしてみて」
「おデコ、ですか?」
まぁ、それくらいなら。
腕を伸ばし、おでこに触れ――たはずなのに、腕が突き抜けた。
「ぅおう!?」
目の前に立っているキッカさんの体に、一切触れることが出来ない。
そして、キッカさんは徐々に歪んで、薄くなって……消えた。
「これが、オーラを使った残像よ」
突然、背後から声が聞こえてきた。
振り返ればキッカさん。……いつの間に背後に?
「オーラをその場に残して、一気に移動すれば、オーラが自分の形のまま残ってくれるってわけよ。これなら出来るでしょ?」
いや、出来ないと思いますよ、普通の人は。
「分かった。やってみる」
しかし、アイナさんはやる気だ。
出来る自信があるのか、キリッとした表情は勇ましくも美しく、時に可憐で、そこはかとなく色っぽく…………あぁ、可愛い。
「じゃあ、タマちゃん。さっきみたいに剣鬼にタッチ……あ、いいや。あたしがやる」
「なんでですか!? タッチ係はボクの仕事ですよ!?」
「そんな犯罪者一歩手前のデレ顔さらしてる男に任せられるわけないでしょ!?」
「一歩手前がダメなら、思い切って一歩踏み込みますから!」
「犯罪者の領域に踏み込んだら、ここから追い出すわよ!」
うぅ……【ドア】の外で追い出すとか……それはもう、世界からの退場じゃないですか。