「い~い、剣鬼? こういうのは、危機感とか持ってやる方が成功しやすいから、あたし、マジで攻撃するね」
「うむ」
「えっ!? それって危なくないですか!?」
「大丈夫よ。別にナイフで刺すってわけじゃないし。これを使うわ」
と、キッカさんが取り出したのは……鉄球?
片手で握れるくらいの、鉄の玉。
あんなもの、なんのために持ってるんだろう?
「これは、遠距離攻撃用の鉄球なのよ」
「遠距離……飛ぶんですか、それ?」
「重そうに見えるけど、結構軽いのよ、これ。持ってみる?」
手を差し出すと、キッカさんが鉄球をボクの手に載せてくれた。
軽っ!?
見た目3キロほどありそうなのに実際は20~30グラムくらいしかない。
これならボクでも遠くへ投げられそうだ。
「魔法が掛かっててね、モノにぶつかった瞬間すごく硬くなるのよ」
ボクの手から鉄球を取り上げ、軽~い感じで近くの岩へと放り投げる。
鉄球が岩に触れた瞬間、岩が抉れた。
……え、えげつない。
「ね?」
「やっぱり危険じゃないですか!」
「大丈夫、わたしなら平気」
鉄球が岩を抉る様を見てもなお、アイナさんのやる気は失われない。
「種まきのために、わたしは頑張るっ」
「そんな大怪我を負ってまでやるような作業じゃないですよ、種まき!?」
なんなら、幼い子供たちに体験農業でやらせるくらいのお気軽なものですから!
しかし、アイナさんが纏う空気は真剣そのもの。
鬼気迫るものを感じる。
「まずは、オーラを…………」
アイナさんが、腰に提げた剣の柄に手をかける。
そして、深く息を吸い込んで……
「はっ!」
爆発した。
いや、爆発したように感じた。
アイナさんを中心に突風が吹き荒れているような。
一瞬、魂が吹き飛ばされたんじゃないかと思うほどの衝撃が全身を包み、通り過ぎていった。
ボク、放心……
「……う、……うん…………そうそう。そんな感じ……」
キッカさんも放心している。
アイナさんの本気……底が知れない。
「もう少し、闘気を穏やかにする」
その言葉通り、荒れ狂う荒波のようだったオーラが少しずつ穏やかになり、白浜に寄せては返すさざ波くらいの静かさになった。
ただ、「そこに海がある!」みたいな、圧倒的な存在感は健在だ。
すっごく巨大で獰猛な魔獣が目の前で昼寝をしているような、そんな緊張感がある。
「キッカ……お願いする」
「う、うん……てか、たぶん、直撃してもダメージなさそうだけど……とりあえず、投げるわね」
これだけのオーラを発していれば、きっと残像は残るだろう。
アイナさんのスピードならきっとうまくいく。
下手したら、オーラが濃過ぎて、残像は本人よりも若干色が濃いかもしれない。
そんなことを考えていると、キッカさんが鉄球を持って、投球のモーションを始める。
大きく振りかぶって、第一球…………投げたっ!
んゴ……ンッ!
ぶつかったー!?
アイナさんの額に鉄球がクリーンヒットォー!
おぉーっと、アイナさんが額を押さえてうずくまった! これは痛そうだぁ!
「避けなさいよ!?」
おデコを押さえてうずくまるアイナさん。
これはかなり痛そうだ。ボクは思わずアイナさんに駆け寄る。
「アイナさん、大丈夫ですか!?」
と、肩に手を掛ける――と、手がアイナさんの体をすり抜けた。
「……残像」
「今じゃないでしょ、残像するタイミング!?」
50メートルほど向こうに、本物のアイナさんが出現していた。
相変わらずおデコを押さえ、泣きそうな目をしている。
――ヒュン!
――ゴスッ!
――「痛っ!?」
――「大丈夫ですか!?」
――シュン!
――「残像だ」
うん、遅い。
けれど、アイナさんが初めて残像を使った。最初だからちょっと失敗しちゃったけれど。
次は、ダメージが残らないように気を付けましょうね。
……っていうか、普通にやってのけちゃったなぁ、アイナさん。やっぱすごい人なんだ。