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18話 アイナ、千切る‐せんぎる‐ -4-

「揺ーれーるー!」


 キッカさんがマストにしがみついて悲鳴を上げている。

 ボクたちは今、荒れ狂う海に浮かぶ船の上にいます。……うぅ、酔った。


 ただでさえ波が荒いのに、そこへ巨大な魔獣タコが出現したもんだから、船はもう上下左右にぐゎんぐゎん揺れまくる。


「剣鬼ぃー! もう、さっさと倒しちゃって!」


【ハンティングフィールド】に入る前は「今度こそあたしの華麗なスキルを見せつけてあげるわ!」とか言っていたキッカさんだが、乗り物に弱いという意外な弱点が露呈し、今回は早々に戦線を離脱している。


 一方のアイナさんは。


「残像……残像……残像……残像…………」


 残像のコツを覚えたらしく、嬉しそうに必要のない場面で残像を使いまくっていた。

 ……倒しましょう、早く……お願いしますから。


 タコが大木のような足を振り下ろしてくる。

 が、それを拳一本で跳ね返すアイナさん。強さでは圧倒的にアイナさんが優勢だ。

 だが、相手は海を自在に移動出来るのに対し、こちらは足場が不安定な激しく揺れる船の上。移動範囲も限られていて分が悪い。



『ブォォォォオオオオオオオッ!』



 タコが、雄叫びを上げながら太く長い足を振り上げる。

 その数六本。


 あんなものを叩きつけられたらこの船は全壊、沈没……ボクたちは全員海の藻屑となってしまうだろう。


「モズクになるぅー!」


 キッカさんが叫ぶ。

 藻屑です。


「二人をモズクにはさせない……っ!」


 アイナさんが剣を構え走り出す。

 藻屑です!


「はぁ……っ!」


 流れるように剣が舞い、巨大タコの足を次々切断していく。

 五本、六本、七本……そして、最後の一本は――


「――流星剣っ!」


 今度はイカではなく、きちんとした剣の形をした流星が巨大タコへと降り注ぐ。


「――左手は、ネコの手!」

「いや、そこは押さえなくても大丈夫ですよ!?」

「にゃーん」

「最高ですっ!」

「……なんでもいいから、早く終わらせて……」


 巨大タコの体を左手でしっかりと押さえ、千切りをするように流星剣を叩き込む。

 巨大タコが見る間に滅多切りにされ……その姿を光の中へと消失させた。


「タコの千切り……完了」

「見事な千切りでした」


 まぁ、どっちかというとみじん切りでしたけれど。


「ちゃんと、出来ていた?」

「はい。ちゃんと千切(せんぎ)れていましたよ」

「……そうか。千切れていたか……ふふ」


 アイナさんが満足そうなので、今はこれでいい。

 そのうち、もっと練習して上手になりましょうね。


 心でそう呟くボクの背後で――


「だから『千切(せんぎ)る』なんて動詞ないから……」


 ――みたいなツッコミが、死にそうな声で聞こえてきた。

 キッカさんが限界のようなので、ボクたちはさっさと【ハンティングフィールド】を後にした。






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