「揺ーれーるー!」
キッカさんがマストにしがみついて悲鳴を上げている。
ボクたちは今、荒れ狂う海に浮かぶ船の上にいます。……うぅ、酔った。
ただでさえ波が荒いのに、そこへ巨大な魔獣タコが出現したもんだから、船はもう上下左右にぐゎんぐゎん揺れまくる。
「剣鬼ぃー! もう、さっさと倒しちゃって!」
【ハンティングフィールド】に入る前は「今度こそあたしの華麗なスキルを見せつけてあげるわ!」とか言っていたキッカさんだが、乗り物に弱いという意外な弱点が露呈し、今回は早々に戦線を離脱している。
一方のアイナさんは。
「残像……残像……残像……残像…………」
残像のコツを覚えたらしく、嬉しそうに必要のない場面で残像を使いまくっていた。
……倒しましょう、早く……お願いしますから。
タコが大木のような足を振り下ろしてくる。
が、それを拳一本で跳ね返すアイナさん。強さでは圧倒的にアイナさんが優勢だ。
だが、相手は海を自在に移動出来るのに対し、こちらは足場が不安定な激しく揺れる船の上。移動範囲も限られていて分が悪い。
『ブォォォォオオオオオオオッ!』
タコが、雄叫びを上げながら太く長い足を振り上げる。
その数六本。
あんなものを叩きつけられたらこの船は全壊、沈没……ボクたちは全員海の藻屑となってしまうだろう。
「モズクになるぅー!」
キッカさんが叫ぶ。
藻屑です。
「二人をモズクにはさせない……っ!」
アイナさんが剣を構え走り出す。
藻屑です!
「はぁ……っ!」
流れるように剣が舞い、巨大タコの足を次々切断していく。
五本、六本、七本……そして、最後の一本は――
「――流星剣っ!」
今度はイカではなく、きちんとした剣の形をした流星が巨大タコへと降り注ぐ。
「――左手は、ネコの手!」
「いや、そこは押さえなくても大丈夫ですよ!?」
「にゃーん」
「最高ですっ!」
「……なんでもいいから、早く終わらせて……」
巨大タコの体を左手でしっかりと押さえ、千切りをするように流星剣を叩き込む。
巨大タコが見る間に滅多切りにされ……その姿を光の中へと消失させた。
「タコの千切り……完了」
「見事な千切りでした」
まぁ、どっちかというとみじん切りでしたけれど。
「ちゃんと、出来ていた?」
「はい。ちゃんと千切(せんぎ)れていましたよ」
「……そうか。千切れていたか……ふふ」
アイナさんが満足そうなので、今はこれでいい。
そのうち、もっと練習して上手になりましょうね。
心でそう呟くボクの背後で――
「だから『千切(せんぎ)る』なんて動詞ないから……」
――みたいなツッコミが、死にそうな声で聞こえてきた。
キッカさんが限界のようなので、ボクたちはさっさと【ハンティングフィールド】を後にした。