★★★★★★★★★★
ドサっと、倒れ込むように剣鬼がベッドへ沈む。
ここのベッドはクッション性が高くふかふかだ。にしてもドサッと勢いよく沈み過ぎだ。
普通なら痛くないように体重をうまく逃がして倒れ込むものなのに、剣鬼はそんなことを一切考えずに倒れ込んだ。きっと鼻とか胸が痛かったはずだ。
「ちょっと、剣鬼。疲れてるのは分かるけど、もうちょっと静かに入りなさいよ。ベッド一つしかないんだから」
腹立たしいことに、この部屋にベッドは一つしかない。
そりゃあ、もともと剣鬼のための部屋に、あとからあたしが同居するって流れだったから仕方がない部分は認めよう。
けど、ならなぜダブルベッドなのか……だったらシングル二つにすることも出来たんじゃないかと邪推してしまう。
「ん……ちょっと、剣鬼?」
うつ伏せでベッドに埋まったままピクリとも動かない剣鬼。
え……寝てる?
いや、死ぬから! 呼吸確保して!?
「剣鬼! 寝るなら鎧脱いでからにしなさいよ!」
剣鬼は、鎧の上にエプロンを着ける。
……窮屈そうに見える。が、まぁ、分からなくもない。
長く冒険者なんてものをやっていると、武器や防具を外すということに不安を覚えるものだったりする。
あたしは普段、ある程度寛げるような格好をしている。けれど、ナイフと胸当ては必ず装着している。
これがなければ、あたしは何度となく死んでいたはずだから。
ないと不安になるのだ。
に、しても。
剣鬼の鎧は物々し過ぎる。そんなに全身覆い隠さなくても、あんた十分強いだろうに。
「うわ……重っ」
剣鬼をひっくり返そうと手をかけるが、びくともしない。
いや、本気で押せばひっくり返すくらいは出来るけど、結構力を入れなきゃ出来ないということに驚きだ。……こいつ、この鎧を着てあの速度で移動出来るの? 鎧を脱いだらどんだけ速くなるんだろう?
「つくづく、バケモノね……」
『剣鬼』とは、多くの冒険者を震え上がらせた通り名だ。
どんな魔族も、魔獣の群も、剣鬼一人で殲滅出来る。絶対的な強さを持った剣士。
しかし、決して人類の味方というわけでは……ない。
ドラゴン狩りをしていた王国の精鋭部隊を壊滅させたとか、砦を吹き飛ばしたとか……眉唾なものまで合わせれば、剣鬼の力に関する噂には暇がない。
そして、そんな根も葉もない噂でさえ、「剣鬼ならあり得る」と思えてしまうほどの実力を、こいつは持っている。
……ま、ここで見ているこいつからは、そんな気配は感じられないけれど。
別人なんじゃないかと、たまに思ってしまう。
けれど、あのオーラ、あの速度、あの剣技……間違いなくこいつは剣鬼に違いない。
じゃあ、噂の方が嘘?
……いや、そんな嘘や出鱈目で王国から討伐命令が出るはずがない。
剣鬼には懸賞金がかかっている。
デッド・オア・アライブ。
討ち取れた者には、一生遊んで暮らせるような額の賞金が与えられる。
そんな懸賞金をかけたのは、件のドラゴン狩りを行っていた国なのだが……
「世界と、あたしの目と……どっちがおかしいんだかね」