……バカ。
「…………っ!」
喉が痙攣する。
バカ……タマちゃんのバカ…………
ずっと我慢してたのに。
どんなにつらいことがあっても、泣くもんかって、ずっとずっと我慢してたのに……っ!
ダメだ、俯いたら涙がこぼれる。
無理矢理に顔を上げる。……と、ドアが歪んでいた。
ホールへ続くドア。
この向こうにタマちゃんがいる。
らしくもなく、怒ったタマちゃんが……
不意に、タマちゃんの顔が脳裏に浮かんでくる。
いつもの、無防備で、無邪気で、無神経なくらいに素直過ぎるあの笑顔が。
「…………嘘でしょ」
たったそれだけで、あたしの顔は信じられないくらいに赤く、熱くなっていた。
マジで……あり得ないって……
まぶたを閉じると、大粒の雫が零れ落ちていった。
あぁ、もうダメだ。
これを止める方法はただ一つ。
流させた張本人に責任を取ってもらうしかない。
あたしは駆け出す。
そこに剣鬼がいることを、あたしはまったく考えていなかった。完全に意識の外に追いやってしまっていた。
頭の中にあるのは……心を埋め尽くしていたのは……
「タマちゃんっ!」
ドアを抜けて、出口に向かってうな垂れているタマちゃんの背中に駆け寄り、力任せに抱きつく。躊躇いも恥じらいもなく。ただ、本能の赴くままに、頼もしいその背中に身を寄せる。縋りつく。
「……タマちゃん……っ」
みっともなく震える声が漏れて、急に、理由も分からず喉に蓋がされる。
言いたいことがたくさんあるのに、どんな言葉も出てこない。
感情は溢れてくるのに、言葉も次々思い浮かんでくるのに、喉を覆う蓋のせいで言葉に出来ない。
言葉にするのが、怖い。
なんて言えばいいのか、分からない。
なんでなのか分かんないけれど…………すごく、恥ずかしいっ。
「あ、あの……キッカさん、これは……一体……?」
おろおろと落ち着きなく戸惑いをはっきりと見せるタマちゃんが、こっちを必死に振り返ろうとしている。
こっち見んな。――と、腕に力を込めてタマちゃんの動きを抑制する。
なんか、タマちゃんの骨がみしみしって言っているけれど気にしない。
……こんな顔、見せられるはずがない。
でも、言わなきゃ。
これだけは、どんなことがあっても、きちんと言葉にして伝えなきゃ。
俯いて、タマちゃんの背に顔を隠したままで、必死に表情筋を整える。
いつものあたしらしく、自信たっぷりで、余裕に満ち満ちた、明るく元気なキッカさん、そんな笑顔を作る。そのために呼吸と鼓動と心を落ち着ける。
「…………とぅ」
「え……?」
くぁっ!
声が出ない。なんでこんなに震えるの。
いい言葉だから。
嬉しいって気持ちを伝えるための、前向きな言葉だから。
恐れずに、真っ直ぐ、体当たりで!
「……ありがと」
その言葉を口にした瞬間――あたしの世界の色が、変わった。