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『生き物を殺すなんて、神経がどうにかなっている証拠ですわよねぇ』
その言葉を聞いた時、後頭部を殴られたような衝撃を受けた。……気が、した。
その直後にシェフと目が合って、思わず、視線を逸らしてしまった。
……見ないでほしいと思った。
無数の命を奪い続けてきたわたしの顔を。
とても、見せられるものではないと、思った。
わたしは、神経がどうにかなっている。
わたしは……普通の人間では、ないのだろう。
それなのに。
『彼女の誇りを傷付けるような行為はボクが許しません』と、シェフがキッカを庇った後に付け足された――
『それから――冒険者の誇りも』
――そんな一言が、たまらなく…………胸をざわつかせた。
わたしに、誇りなどあるのだろうか……
従業員スペースの廊下から、キッカが飛び出していった。
ドアがゆっくりと閉まり、廊下にはわたし一人だけが残る。
先ほど、ほんの一時【歩くトラットリア】を包んでいた緊迫した雰囲気はいつの間にか消えていて、今はいつもの穏やかな空気が流れている。
ここにいると、いろんなことを忘れそうになる。
温かくて、心地よくて……
これまでいた血なまぐさい世界が全部嘘だったのではないかと、そんな妄想に浸ってしまう。そんなわけはないと、分かってはいるのだけれど。
「キッカの頭……小さかったな」
お客さんにいろいろと言われ、キッカの心は弱っていた。泣きそうになるのを、何度も必死にこらえていた。
そんな時に、わたしに寄りかかってくれた……
キッカがわたしを頼ってくれたようで、嬉しかった。
その時に触れた頭は、本当に小さくて、可愛かった。
なんとなく、自分の頭を触ってみる。
少し、硬い。
キッカの髪はふわふわで柔らかくて、撫でると気持ちよかった。
あ、そうそう。
……鎧は着ているが、ガントレットは外している。それは飲食店の常識だ。手は、清潔に。
いや、なんとなく……このタイミングで説明が必要な気がしたから……なぜだかは、分からないけれど。
話は逸れたが、キッカの髪の毛は気持ちがいい。
寝る時も、気が付くと撫でていることがある。あぁいう動物がいれば、きっと人気者になるだろう。
キッカネコ……萌える。
一方、わたしの髪は硬い。
まるで、髪の毛までもが凶器だ。わたしにはお似合いだ。
キッカのような、可愛らしい髪は、キッカだから似合うのだ。
「…………」
自分の頭をしばらく撫でてみる。もはもは、もふもふ。
しかし、やっぱりというか……全然気持ちよくなかった。撫でている手も、撫でられている頭も。……むぅ。つまらない。
『むはっぁああ!?』
突然の大声に、肩がビクッと震える。
今のはキッカの声?
何があったのだろうかと、慌ててドアを開けフロアへと向かう。
「ご、ごごごご、ごめっ、ご、ごめ……ご、ご……」
キッカが今にも大空に羽ばたいていきそうな格好で固まっている。
その向かいには、両手で頭を抱えて固まるシェフがいた。
……なにごと?