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25話 アレの名は -1-


★★★★★★★★★★


「あれは、なんという名前なのだろうか?」


 幼き日のわたしが問う。

 指を差す先には、ふわふわの毛に覆われた大型の魔獣がいる。

 獰猛そうなのに、瞳がつぶらで可愛い。そんな魔獣だった。


 その魔獣の首が飛ぶ。


 それは本当に一瞬の出来事で――


「この世から消えるモノの名など覚える必要はない」


 ――後には、魔獣の首をねた男の言葉が冷たく耳に残るだけだった。


 さっきまで生きていた『モノ』……わたしは、自分と男と『モノ』しかいない世界に生きていた。

 目に映るものは、やがて死ぬ。故に、それらは『モノ』でしかなく……


 わたしは、『モノ』の名を問うことをやめた。







 …………嫌な夢を見た。

 最近は見ることもなくなっていた、アノ男の――父の夢。


「……はぁ」


 思わすため息が漏れ、眠るわたしにいつも癒やしを与えてくれるもふもふに顔を埋める。


「もふもふもふもふ……」

「人の頭で何やってんのよ、剣姫!?」

「あ、キッカ……起こしちゃった?」

「えぇ、それはもう、完璧にね」


 キッカを抱っこする時、キッカはいつも向こうを向くので、わたしは背中から抱きつく格好になる。なので、ふわふわの髪の毛は独占状態だ。もふもふ……


「って、こら。人の頭もふもふしてないで、起きたなら放しなさいよ。顔洗いに行くから」


 そうだ。起きたらまず顔を洗って歯を磨いてうがいを……今は何時くらいだろうか?

 まだ少し……眠……い。


「ぁふ……」


 噛み殺せなかったあくびが漏れて、まぶたがゆっくりと下がってくる。

 ふわふわの髪の毛に顔を埋めて大きく息を吸い込むと、わたしはまどろみの中へと落ちていった。

 キッカの匂いがする。

 落ち着く……匂い…………わたしは、この匂いが……好……き………………すぅすぅ。


「ちょっとっ、剣姫!? えっ!? 寝てんの!? あたし、完全に目覚めちゃったんだけど!? せめて解放してから……くっ、相変わらず寝てるのに腕力がすごいっ……抜け出せないぃぃぃいっ! ………………もぅ!」


 じたばたとしていたキッカの体から力が抜け、寝室は再び静寂に包まれる。

 あと少し眠ったら今度こそ起きよう。

 キッカのおかげで、今度は嫌な夢を見ずに済みそう……そんな気がしていた。






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