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「あれは、なんという名前なのだろうか?」
幼き日のわたしが問う。
指を差す先には、ふわふわの毛に覆われた大型の魔獣がいる。
獰猛そうなのに、瞳がつぶらで可愛い。そんな魔獣だった。
その魔獣の首が飛ぶ。
それは本当に一瞬の出来事で――
「この世から消えるモノの名など覚える必要はない」
――後には、魔獣の首を
さっきまで生きていた『モノ』……わたしは、自分と男と『モノ』しかいない世界に生きていた。
目に映るものは、やがて死ぬ。故に、それらは『モノ』でしかなく……
わたしは、『モノ』の名を問うことをやめた。
…………嫌な夢を見た。
最近は見ることもなくなっていた、アノ男の――父の夢。
「……はぁ」
思わすため息が漏れ、眠るわたしにいつも癒やしを与えてくれるもふもふに顔を埋める。
「もふもふもふもふ……」
「人の頭で何やってんのよ、剣姫!?」
「あ、キッカ……起こしちゃった?」
「えぇ、それはもう、完璧にね」
キッカを抱っこする時、キッカはいつも向こうを向くので、わたしは背中から抱きつく格好になる。なので、ふわふわの髪の毛は独占状態だ。もふもふ……
「って、こら。人の頭もふもふしてないで、起きたなら放しなさいよ。顔洗いに行くから」
そうだ。起きたらまず顔を洗って歯を磨いてうがいを……今は何時くらいだろうか?
まだ少し……眠……い。
「ぁふ……」
噛み殺せなかったあくびが漏れて、まぶたがゆっくりと下がってくる。
ふわふわの髪の毛に顔を埋めて大きく息を吸い込むと、わたしはまどろみの中へと落ちていった。
キッカの匂いがする。
落ち着く……匂い…………わたしは、この匂いが……好……き………………すぅすぅ。
「ちょっとっ、剣姫!? えっ!? 寝てんの!? あたし、完全に目覚めちゃったんだけど!? せめて解放してから……くっ、相変わらず寝てるのに腕力がすごいっ……抜け出せないぃぃぃいっ! ………………もぅ!」
じたばたとしていたキッカの体から力が抜け、寝室は再び静寂に包まれる。
あと少し眠ったら今度こそ起きよう。
キッカのおかげで、今度は嫌な夢を見ずに済みそう……そんな気がしていた。