「申し訳なかった」
アイナさんが綺麗な土下座をしている。
マルーラフルーツを食べて酩酊したアイナさんは、あの後キッカさんに部屋まで運ばれて、ベッドに着くなり眠りに落ちたらしい。……キッカさんを巻き込んで。
アイナさんは、眠る時にはキッカさんを抱っこしているのだ。
……あれ? ボクのプレゼントした黒羊のぬいぐるみは?
「もう二度と、お酒は飲みません」
「いや、あれはボクにも責任が。きちんと説明してませんでしたし」
ボクは一切怒っていない。というか、アイナさんの意外な一面を見ることが出来てラッキーだったと思っているくらいだ。
なのだが……
「反省だけならサルでも出来るっ!」
キッカさんはご立腹だ。
酔ったアイナさんに相当絡まれたらしい。
被害報告書を書かせたら、どこかの魔導書並み分厚さになることだろう。
「キッカ、機嫌を直してほしい」
「二時間半拘束されて身動き一つ取れなかったのよ? それがどんなに苦痛か……っ」
「シェ……黒羊のぬいぐるみ(名称考案中)を一撫でさせてあげるから」
「一撫でなの!? なに、その出し惜しみ!? 今度わっしゃわっしゃしてやる!」
「ら、乱暴に扱わないであげてほしい! デリケートな子だから」
「あたしも、二時間半も拘束されると疲弊するくらいにはデリケートなんですけど!?」
うぅむ。
キッカさんの怒りが収まらない。
いや、まぁ、気持ちは分かりますが……眠ることも出来ず、動くことも出来ない二時間半…………つらい。
よし。
ここはきっとボクの出番だろう。
怒りは疲れから生まれる。
疲れは、甘い物や美味しい物で癒される。
というわけで、『立ったお腹を寝かしちゃえ! あまあま、激うまクッキング大作戦!』
「キッカさん。今日みんなでとってきた果物で美味しい物を作りましょう」
「お酒にするんでしょ?」
「十分量はありますし、飲むだけじゃもったいないですよ」
「……まぁ、それもそうかもね」
少しだけ意識がこちらに向いた。キッカさん、美味しい物好きだからなぁ。
「果物を使うってことは、スウィーツだよね?」
「そうですね、ドルチェです」
「え? デザートではないのか?」
ま、みんな似たような物なのだけれど。
要するに、甘いお菓子だ。
そして今回作るのは……
「リンゴのシブーストを作りましょう!」
「「りんごのしぶーすと?」」
分かりやすい合いの手、ありがとうございます。
非常に説明がやりやすいです。
「リンゴとシブーストクリームをパイに載せたケーキですよ」
「ケーキかぁ……」
キッカさんの機嫌がぐんぐんよくなっていく。
「しぶーすとくりーむ、とはなんだろうか?」
アイナさんが横文字を一回で……!?
ケーキパワーだろうか? アイナさんの中の女子心が甘い物に食いついたのだろうか。
すごいな、スウィーツ。
「シブーストクリームっていうのは、カスタードクリームにイタリアンメレンゲとゼラチンを混ぜたものです」
「いた……めれげ?」
惜しい。
実物を見ていないと想像しにくいし、想像しにくい物の名前は覚えにくい。
うん。アイナさんは悪くない。
「……と、ゼン……ラ、チン?」
「ゼラチンです!」
危ない!
今なんだか危ないワードが飛び出しそうだった!
『全裸』の後にそのワードはダメです!
これはマズい。
一秒でも早くアイナさんに正しい認識をしてもらわなければ! 早急に!
「じゃあ、実際作りながら説明しますね」
言いながらリンゴの皮を剥き始める。