でも、折角なので……
「ゆ、指切り、しましょうか?」
「指切り……?」
ボ、ボディータッチを…………どきどき。
「……契約の証として、指を切断して、差し出せばいいのだろうか……?」
「違います! もっと可愛いヤツです!」
その後、必死にやり方と意味を説明し、ボクとアイナさんは小指を絡ませた。
あはぁ……苦労はしたけど、ボク、今、アイナさんと手を繋いでいる……っ!
あれ? 指と指を絡ませるって……これって、もはや恋人つなぎじゃね!?
むはぁぁあ! ボク、なんて大胆なことを!?
「……お師さん、ボク…………大人になりました」
「なってないよ、タマちゃん。全っ然なってないから」
お師さんに投げた言葉の返事が、キッカさんから飛んできた。
混線しているようだ。
「お嬢ちゃんと太ももちゃんが慣れてくれば、一人が【ハンティングフィールド】、一人が【ファームフィールド】と分担することも可能じゃろう。それまでは研修期間じゃな」
「研修……か。うむ。必要だな、研修は」
なんとか納得してくれたようだ。
「というわけで、今度またみんなで行きましょうね」
「うむ。その時は頼りにしてほしい」
「はい。おまかせします」
「タマちゃんも、たまには戦っていいんだよ?」
「あはは。ボクは草食動物に食べられそうになった男ですよ?」
「……笑い事じゃないわよ、それ」
でも、アイナさんとキッカさんがいると、【ハンティングフィールド】に出てくる魔獣のレベルも上がるだろうし……うん、無理無理。ボクの手には負えませんって。
「ボクは、料理で巻き返しますので!」
「究極のインドア派よね、タマちゃんって」
畑も果樹もお世話して、牛の面倒まで見てるのに!?
……たまには外出した方がいいのかな。お買い物とか、もう少し頻繁に行くことにしようかな…………必要な物は【歩くトラットリア】が用意してくれるから必要ないっちゃないんだけど。
「むっ。そろそろお客さんが来そうな気がするのじゃ」
「えっ、本当ですか!?」
「ちょっと、なんの準備もしてないじゃない!」
「す、すまない。わたしが『ハンティング……ふぃ~……』あそこに行こうとか言ったばっかりに!」
「諦めましたね、アイナさん!?」
「もう、そんなのどうでもいいから! 剣姫! あたしの使ったお皿とカップ、片付けて!」
「ほっほっほっ。自分ではやらないんじゃの、太ももちゃん」
「剣姫に仕事を覚えさせてるの! 練習よ練習」
「と言う割には、ほっぺがちょっと赤く染まってますが」
「う、うっさいなぁ! タマちゃん、あたしの顔とか、じっと見過ぎ」
「いえ、そんなには見てないですよ」
「…………見ろよ」
「え……?」
「おサルしてもよろしいでしょうか!」
「やってみれば!? そこで『うきー!』とかしてなさいよ!」
「アイナさん、惜しいです。『お下げ』です」
「か、噛んだ!」
「噛んだなら仕方な……」
「甘やかすな!」
「あ、キッカさん。さっきのおサルさん可愛かったですよ」
「ふなっ!?」
「もう一回やってくれます?」
「う、うるさい、うるさい! こっちみんな!」
「さっきは見ろって……」
「うるさぁぁあい!」
「……うきー」
「ホントにやんなくていいから、剣姫!」
「ほっほっほっ。片付けんでいいのかのぉ」
「わぁ!? 片付けましょう! お客様が来ます!」
と、ドタバタしながら食器を片付け、テーブルを拭いて、なんとなく持ち場に着いた時、【ドア】が開いた。
「いらっしゃいませ。ようこそ【歩くトラットリア】へ」
おぉ!?
アイナさんがきちんと言えた!
なんて感動しているボクたちに向かって、お客様はこんなセリフを言った。
「お願いします! 助けてくださいっ!」
傷だらけで憔悴しきった男女が、すがるような目で訴えかけていました。