目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

29話 心配です -3-

 でも、折角なので……


「ゆ、指切り、しましょうか?」

「指切り……?」


 ボ、ボディータッチを…………どきどき。


「……契約の証として、指を切断して、差し出せばいいのだろうか……?」

「違います! もっと可愛いヤツです!」


 その後、必死にやり方と意味を説明し、ボクとアイナさんは小指を絡ませた。

 あはぁ……苦労はしたけど、ボク、今、アイナさんと手を繋いでいる……っ!

 あれ? 指と指を絡ませるって……これって、もはや恋人つなぎじゃね!?

 むはぁぁあ! ボク、なんて大胆なことを!?


「……お師さん、ボク…………大人になりました」

「なってないよ、タマちゃん。全っ然なってないから」


 お師さんに投げた言葉の返事が、キッカさんから飛んできた。

 混線しているようだ。


「お嬢ちゃんと太ももちゃんが慣れてくれば、一人が【ハンティングフィールド】、一人が【ファームフィールド】と分担することも可能じゃろう。それまでは研修期間じゃな」

「研修……か。うむ。必要だな、研修は」


 なんとか納得してくれたようだ。


「というわけで、今度またみんなで行きましょうね」

「うむ。その時は頼りにしてほしい」

「はい。おまかせします」

「タマちゃんも、たまには戦っていいんだよ?」

「あはは。ボクは草食動物に食べられそうになった男ですよ?」

「……笑い事じゃないわよ、それ」


 でも、アイナさんとキッカさんがいると、【ハンティングフィールド】に出てくる魔獣のレベルも上がるだろうし……うん、無理無理。ボクの手には負えませんって。


「ボクは、料理で巻き返しますので!」

「究極のインドア派よね、タマちゃんって」


 畑も果樹もお世話して、牛の面倒まで見てるのに!?

 ……たまには外出した方がいいのかな。お買い物とか、もう少し頻繁に行くことにしようかな…………必要な物は【歩くトラットリア】が用意してくれるから必要ないっちゃないんだけど。


「むっ。そろそろお客さんが来そうな気がするのじゃ」

「えっ、本当ですか!?」

「ちょっと、なんの準備もしてないじゃない!」

「す、すまない。わたしが『ハンティング……ふぃ~……』あそこに行こうとか言ったばっかりに!」

「諦めましたね、アイナさん!?」

「もう、そんなのどうでもいいから! 剣姫! あたしの使ったお皿とカップ、片付けて!」

「ほっほっほっ。自分ではやらないんじゃの、太ももちゃん」

「剣姫に仕事を覚えさせてるの! 練習よ練習」

「と言う割には、ほっぺがちょっと赤く染まってますが」

「う、うっさいなぁ! タマちゃん、あたしの顔とか、じっと見過ぎ」

「いえ、そんなには見てないですよ」

「…………見ろよ」

「え……?」

「おサルしてもよろしいでしょうか!」

「やってみれば!? そこで『うきー!』とかしてなさいよ!」

「アイナさん、惜しいです。『お下げ』です」

「か、噛んだ!」

「噛んだなら仕方な……」

「甘やかすな!」

「あ、キッカさん。さっきのおサルさん可愛かったですよ」

「ふなっ!?」

「もう一回やってくれます?」

「う、うるさい、うるさい! こっちみんな!」

「さっきは見ろって……」

「うるさぁぁあい!」

「……うきー」

「ホントにやんなくていいから、剣姫!」

「ほっほっほっ。片付けんでいいのかのぉ」

「わぁ!? 片付けましょう! お客様が来ます!」


 と、ドタバタしながら食器を片付け、テーブルを拭いて、なんとなく持ち場に着いた時、【ドア】が開いた。


「いらっしゃいませ。ようこそ【歩くトラットリア】へ」


 おぉ!?

 アイナさんがきちんと言えた!


 なんて感動しているボクたちに向かって、お客様はこんなセリフを言った。



「お願いします! 助けてくださいっ!」



 傷だらけで憔悴しきった男女が、すがるような目で訴えかけていました。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?