すっと一歩前へ進み出るアイナさん。
その隣に並び立つキッカさん。
「え……しかし……」
ドイルさんは戸惑い顔だ。
助けに行ってくれるのは嬉しい。けれど、あまりに危険過ぎるのではないか。そんな葛藤があるようだ。
「キッカさん、大丈夫なんですか?」
アイナさんに聞けば、絶対に「大丈夫だ」と言うに決まっている。
だから、比較的冷静に状況を判断出来るであろうキッカさんに尋ねる。
もし、少しでも危険だと思うのであれば、別の方法を考えてもらう。
そう思っていたのだが。
「平気平気。あたし一人でもいいくらいなのに、この娘も一緒だしね。余裕よ、よゆー。ね」
「うむ。余裕のヨシュア・レイフォード」
「……誰よ?」
「え? い、言わない、だろうか? わたしが子供の頃は、町の人たちがみんな言っていたのだが……」
余裕のよっちゃん――とかは、聞いたことがありますけどね。
けど、そうか……
「お二人がそう言うのなら、ボクは信じます」
「うん。信じて待ってて」
「必ず助け出してくる。セミを」
「アイナさん……『セナ』さん、です」
「……お、惜しい」
「あんたねぇ……二文字を間違うとか……はぁ……一人で行こうかな」
「い、いや。一緒に行こう! きっと役に立ってみせる!」
これで、本当にセミを持って帰ってきたらどうしよう……キッカさんがいるから、そこら辺は大丈夫だろうけど。
「では、お二人とも。気を付けて」
握り拳を作って、二人に向かって精一杯の気持ちを送る。
そして、出来る限り守ってほしい願いも。
「でも、無茶だけはしないでくださいね」
そんなボクの言葉に、アイナさんはにっこりと、キッカさんはにやりと笑みを浮かべた。
「善処する」
「まー、大船に乗ったつもりで待ってなさいって」
Vサインを高々と掲げて、キッカさんが店を出て行く。
そして、アイナさんはドイルさんとクレハさんに向かって声をかける。
「あなたたちはここで待っていてほしい」
「し、しかし……」
「ここで、シェフの料理をしっかりと食べていてほしい」
ドイルさんもクレハさんもお腹がすいているはずだ。
「い、いえ、食事は……胸が苦しくて何も食べたくは……」
「ダメ。しっかり食べるのだ」
強い口調で言った後、アイナさんはそっと頬を緩める。
「空腹は生きたいという証。娘さんが無事に戻ってきた時に、あなたたちがくたくたでは可哀想だ。美味しいご飯を食べて、しっかりと『生きよう』と思っていてほしい」
そう言って、ドアへと向かう。
そして、ボクの方へと振り返り――
「すぐに戻る。待っていてほしい」
「はい。待っています。美味しいご飯を作って」
「ふふ……それは、楽しみだ」
にっこりと笑って、出て行った。
こういう時に、ボクは二人を手伝えない。
手助けどころか、足手まといになるのが目に見えている。
だから、ボクはボクの出来ることをやろうと思う。
「あ、あの……彼女たちは……大丈夫……なのでしょうか?」
不安げな顔でドイルさんが言う。
「大丈夫です。本人たちがそう言ってましたから」
安心させるように笑って、ボクはドイルさんとクレハさんをテーブルへと案内する。
「たくさん食べてくださいね。娘さんが帰ってきた時に笑顔で迎えてあげられるように」
「……はい」
弱々しくも、ドイルさんとクレハさんは、笑ってくれた。
それにしても……
かつてボクがアイナさんに言った言葉――空腹は体が生きたいと思っている証拠――覚えていてくれたんだなぁ…………ふふ。
そんな単純なことが嬉しくて、心がほっこりとしてしまった。大変な時なのに。
気を引き締めて厨房へと入る。
さて、何を作ろうか……
アイナさんとキッカさんにも、ご褒美ご飯を作ってあげなきゃな。