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森の中に、幾筋もの光が差し込んでいる。
光と影が無規則に連なり、視界を微かにくらませる。
「剣姫、平気?」
「元気、やる気」
誰が韻を踏めって言ったのよ……
「ブギーマントは影に潜れる能力を持っているの」
自身の体を影に変えたり、濃い影があればその中に潜ったりすることが出来る。
だから、影が多い森の中はヤツらにとってお得意のフィールドというわけだ。
剣姫が、木々の隙間から差し込む光の筋に入り、そしてその向こうの影へと足を踏み込んだ時――
「ギャシャァアアアア!」
影の中から一頭のサルが飛び出してきた。
2メートルを超える巨大な体躯に鋭い牙を持ち、真っ赤な顔をした魔獣。ブギーマントが長く鋭利な爪を振り上げて剣姫に襲いかかる。
「剣k……!」
危ないと伝える前に、ブギーマントは一刀両断されていた。
「体を隠しても、気配を消さなければ意味はない。バレバレ」
「……さいで」
心配するだけ無駄なようだ。
倒れたブギーマントに指南しているつもりなのかもしれない先程のセリフも、あたしには「心配無用」と聞こえた。
ブギーマントを知らないらしい剣姫だけど、やっぱりこの程度の魔獣なら余裕なのだろう。 なら、あたしはあたしで狩ってやりますかね。
枯れ葉の積もる柔らかい土を蹴り、一気に加速する。
太い幹の根元に出来た濃く黒い影。
そこへ目掛けてナイフを突き立てる。
「必殺・影破り」
「ギシャァァアアアア……ッ!」
影の中から巨大なサルが現れて事切れる。
残念だったね。
あたしら盗賊も、影を操るのは得意中の得意なのよ。
「ギシャシャァァアア!」
けたたましい声に振り返ると、3メートル超えの大ブギーマントが剣姫に向かって樹齢百年ほどの大木を投げつけていた。
「……斬る」
剣姫はそれをよけることなく、向かってくる大木に剣を突き立てる。
冗談みたいにすっぱりと切れた大木。
だが、剣が大木を斬っている間、剣姫は他のものに剣を向けられない。
それが作戦だったかのように、剣姫の背後から六頭のブギーマントが襲いかかる。
「剣k……っ!」
「妖剣――曼珠沙華――っ!」
まるで華が開くように三十六本の斬影が剣姫を取り囲む。
刃の花弁が剣姫の周りに存在するあらゆるものを両断する。ただの一頭も逃げ切ることは出来ず、ブギーマントは倒れ伏した。
「だから……心配くらいさせなさいっての」
剣姫に挑むブギーマントよりも何よりも、この中であたしが一番無駄な労力を割いている気がするわ。
「キッカ……行こう」
「はぁ……はいはい。どこまででも」
光と影が交差する森の中を進む。
その影の中に人間より巨大で狡猾な魔獣が潜んでいる……なのに、全然不安はない。
前を行く剣姫の背中を眺めて、あたしはこんな場所にいながら、少しだけ笑った。