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何かの終わりは何かの始まり -1-

「えっ!?」


 事務所で新聞を読んでいたツヅリが大きな声を出した。


「どうした?」

「あ、すみません。ちょっと驚く記事がありましたもので」


 キッチンから顔を覗かせてみれば、ツヅリは恥ずかしそうに口元を押さえていた。

 現在俺は朝食の準備をしている最中で、ツヅリは「お邪魔してすみません」と頭を下げる。

 まぁ、ほとんど準備は終わっていて、あとは温め直すだけだから構わないんだが。


 早朝、胸元が大きく開いている上にぼんぼりまでついている、胸元に視線を向かわせるためとしか思えないデザインの服を着ていたツヅリは現在縦縞のセーターを着ている。

 もこもこしていて温かそうではあるのだが、割と体にフィットしていて……それはそれで胸元が目立っている。目に毒だ。


 味噌汁を温める間、ツヅリを驚かせた記事について聞いてみる。


「何があったんだ?」

「犬族と猫族の戦争が終結したんだそうですよ」


 さもすごいことのように言うが、俺はその戦争の概要を知らない。

 ゆえに興味も湧いてこない。


「へぇ」

「いえ、あの! すごいことなんですよ。もう何十年も戦争状態が続いていて、二代前の族長の頃からの長い戦争でですね、子の代を経て現在は孫の代なんですが、そのお孫さんがどちらも娘さんで、姫騎士VS姫|武士(もののふ)の対決だとここ数年ではコアなファンがついて勝負の行方に注目が集まっていたんです」


 ファンって……見世物じゃないだろうに。


「戦争なんかをしていたんだな」

「はい。この街から少し離れた場所に領地を持つ大きな貴族で、領土争いをずっと繰り返していたんです。ですが、街の外なので龍族も介入しにくく、結果放置するような格好に」


 この『世界』はもともと龍族が治めていた土地がベースになっているらしく、現在龍族は王族のようなポジションにいるらしい。

 それでも、この街の外のことにまではあまり強く介入できないようだ。

 まぁ、下手に権力を振りかざせばその分反発も大きくなる。他国が一致団結して龍族打倒を掲げでもしたら面倒なことになるし、戦争なんて誰も望んでいないだろうしな。

 幸いにして、龍族は平和を好む一族のようなので他国を侵略するようなことはしていない。

 そこは評価できるな。


「なんでも、猫族の第二王女が龍族のお婿さんをもらったそうで、犬族が降伏したそうです」

「がっつり他国のいざこざに介入してんな、龍族!?」

「でも、記事によればその第二王女は長年行方知れずだったようで、龍族の方はそうとは知らずに恋愛結婚されたようですよ。ご結婚されたのも一年以上前のことだそうですし。結果として介入したことになりますが、たまたま愛した女性がそういう情勢の国の姫だったということらしいです」


 それはまた、なんとも胡散臭い話だ。

 第二王女の方は知っていて龍族に近付いたんじゃないのか?


 なんにせよ、龍族とは対立したくない犬族は一時的な休戦を求め相応の条件をのんで降伏したそうだ。

 そんなに怖いのか、龍族ってのは。


 まぁ、王族に目を付けられるのは避けたいか。この『世界』の基幹となる一族なら他国とか関係なく影響を及ぼせるから、王族と言うよりもはや皇帝だもんな。

 ウチも、なるべく龍族とは関わらないように気を付けよう。


「まかり間違っても、離婚の相談には来ないでもらいたいもんだな」

「そんなことにはならないと思いますよ。龍族と王女様ですし、結婚も離婚もいろいろなしがらみがあるでしょうし」


 それもそうか。

 性格の不一致であっさり離婚なんて、王族が出来るわけないもんな。ましてや相手が龍族ならなおさらか。


「とりあえず、ウチは平和そうだから朝食を優雅に楽しむとするか」

「はい。お手伝いしましょうか?」

「じゃあ、皿を並べてくれるか」

「はい」


 ツヅリがにこにこ顔で厨房へ入ってくる。

 味噌汁の入った鍋を覗き込んで「いい匂いです」と相好を崩す。

 ざく切りにしたサツマイモを入れた味噌汁だ。絶対に気に入るだろう。


 配膳をしながら味噌汁を口にした時のツヅリの驚く顔を想像し、そして実際味噌汁を口にしたツヅリが俺の想像と同じような表情でヘアテールを嬉しそうにぱたぱた揺らしているのを見て、俺はこんなことを考えていた。

 ツヅリという少女は、きっとこの先も変わらずこうやって分かりやすい素直な表情を見せてくれるのだろう。

 ……と、そんなことを思っていたんだよな、その後やって来た相談者の話を聞くまでは。







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