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20 いや、違うんです

 部室で、僕にとってはとても重要なことをしていたら、突然廊下から荒々しい足音が響いてきて、慌てて証拠を隠滅してパンツを穿き、ズボンを持ち上げようとしたところで、高名瀬さんが部室のドアを開けた。


 そして、第一声は――


「部室で何をしていたんですか!?」


 ――だった。


「いや、違うんです。とりあえず話を聞いてください」

「その前にズボンを穿いてください!」


 あまりの気迫に僕が敬語で対応をしていると、別のところを指摘されてしまった。

 両目に涙を浮かべて上気していた高名瀬さんの顔が、今は違う理由で真っ赤に染まっている気がする。


 とりあえず、思う。


「今日、新品のパンツ穿いてきといてよかったぁ」

「そんな感想は漏らさなくて結構です!」


 抱えたカバンで顔を隠して、まるで「さっさと穿け!」とでも言うように腕をブンブン振る高名瀬さん。


 とりあえずズボンを上げ、ベルトを締める。


「はい。もう大丈夫だよ」

「…………」


 大丈夫と言ったのに、そろ~っと、おそるおそるカバンの向こうから視線を寄越してくる高名瀬さん。

 一切信用されてないなぁ。


「別に僕は、自分の下半身を女性に見せつけて悦に浸るような趣味は持ち合わせてないよ。……今のところ」

「不穏な一言をわざわざ追加しないでください!」


 いや、だって、未来のことは誰にも分からないわけだし。


「はぁ……もう。なんでこんなことに……」


 いや、でも、足音に気付いて慌てて証拠隠滅した僕のことを、少しは褒めてくれてもいいと思うよ?


「僕の反応がもう少し遅れていたら、パンツが間に合ってなかった可能性があるからね」

「自分が運動音痴であることを、今初めて感謝しましたよ」


 あれぇ?

 僕の反応速度を褒めてもらおうと思って振った話題なのに。


「大体、何をしていたんですか、部室で……あんな格好で」

「それは……ちょっと言えないというか……言いにくいなぁ」


 僕の秘密を話してもいいのは、僕のお尻を隅々まで見せられるような相手に限定されている。

 それは、裏を返せば僕の秘密を聞く方にもそれ相応の覚悟が求められるということだ。


「高名瀬さん」

「は、はい……?」


 高名瀬さんには、その覚悟がある?

 もし、覚悟あるのなら、……高名瀬さんになら話してもいいかもしれない。


「高名瀬さんは、僕のお尻に興味ある?」

「ありません!」

「ごめん! 今の言い方は誤解を招くね。だからつまり、『僕のお尻を見て』って言ったら見てくれる?」

「見ません!」


 やっぱそうかぁ~。

 いきなりそんな覚悟は出来ないよねぇ。


「それじゃあ、高名瀬さんには話せないなぁ」

「何をしていたんですか、本当に!?」


 だから、話せないって。


「……卑猥なことじゃないですよね?」


 なんだか、高名瀬さんの瞳が光を失っていく。

 あれ?

 それってもしかして、不審者を見る目?

 え、なんで?


「……そういえば、鎧戸君は本棚にエッチな雑誌がぎっしりとか言ってましたよね?」


 それは中学の時のクラスメイトね。

 ウチの部屋は姉が勝手に出入りするので、そういった危険なものは置いていません。

 本棚にも、ベッドの下にも、床下にも天井裏にもね。


「……そもそも、鎧戸君は一人でこの部室を使いたがっていて、わたしが入部することにも難色を示していましたよね……」


 なんだか、物凄く疑いの目を向けられている。


「……疑うわけではないのですが、とりあえず部室内を改めさせてもらいますね」


 言うが早いか、高名瀬さんは教卓やロッカー、そして全ての机の引き出しを丁寧に覗き込んで、部室内の抜き打ち検査を始めた。


 うん。

 信用って、どうやったら勝ち取れるんだろう。


 高名瀬さんの気が済むまでの間、僕はそんなことを割と真剣に考えていた。







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