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24 青春マンガにありがちな

 校門に戻ると、高名瀬さんが駆け寄ってきた。


「鎧戸君っ!」


 またそんな泣きそうな顔しちゃって。


「大丈夫でしたか!?」

「うん。どっこも怪我してないよ」


 被害があったとしたら、鉄パイプが一本だけです。


 ……あれって、工事現場の資材だよね?

 やっぱ、明日にでも御岳連国君に謝っておいた方がいいのだろうか?


 いや、あの鉄パイプを持ち出したのは愉快な仲間たちなので、彼らの責任と思うことにしよう。


「なんの問題もないよ」

「……よかったぁ」


 ほっと息を漏らした高名瀬さんの頬を、透明な雫が滑り落ちていく。


 涙!?


「高名瀬さん!?」

「あっ……ごめんなさい。安心したら……」


 慌てて頬を拭う高名瀬さん。

 それでも、涙は止まらないようで「あれ? 変ですね」なんて、下手な笑顔で誤魔化そうとする。


 あぁ、もう。こんな時まで誤魔化しが下手なんだから。


「これ、使ってください」

「でも……」

「高名瀬さんは、しばらく『でも』禁止です!」


 強引にハンカチを押し付けて、顔を背ける。

 あまり、女性の泣き顔を見るのもよくないので。


 ……あぁ、泣かせちゃった。

 女の子の涙って、心臓に悪いんだよね。

 姉のウソ泣きですら、どきどきしちゃうのに。


「……ごめん、ね?」

「ううん。こちらこそ……すみません」

「いや、高名瀬さんが謝るようなことじゃないから」

「それじゃあ……ありがとうございます。ハンカチ」


 うぉっう……なんだろう、その返し。可愛いんですけど!?

 すみませんをありがとうに置き換えるとか、この人、聖女か何かですか?


「あぁ……あの、あ、そうだ、結構暗くなっちゃったね」


 何か話さねばと話題を探して空を見上げれば、もう暗くなり始めていた。

 残された時間は少ない。


「提案なんだけど、後ろ、乗らない?」


 歩いて帰ると、さすがに遅くなり過ぎる。

 僕が高名瀬さんを自転車の後ろに乗せて飛ばせば、かなり早く着くはずだ。


「でも、道路交通法が……」


 言いかけて「あっ」と口を押さえる高名瀬さん。


「わたし、今、『でも』禁止でした」


 そんなことを言ってはにかむ。

 その顔は、僕にはGOサインに見えた。

 つまり、何かしら「しょうがないなぁ」と思わせられるような理由があればいいですよと、そんなニュアンスなのだと。


 ならば。


「イケナイことをすることこそが、青春なのではないかと愚考するんだけど?」


 言って、高名瀬さんの反応を窺うと――「ぷっ」っと小さく吹き出された。


「愚考が過ぎますよ」


 くすくす笑って、それでも、自分のカバンを自転車のカゴに入れた。

 それはまさしく、OKのサインに他ならず。


「まぁ、若気の至りと言う言葉もありますし、ね」


 そんな言葉とともに、荷台に腰を下ろす高名瀬さんを見れば、それ以上何も言う必要は感じられず。


「じゃ、しっかり掴まっててね」


 注意を促して、僕はペダルを踏みしめた。

 二人を乗せた自転車がゆっくりと動き出し、徐々に速度を上げていく。



 暮れゆく夕闇の中、僕たちはしばしのサイクリングを楽しんだ。







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