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「鎧戸君、どこですか~?」
小さな声で呼びかけるも、返事はありません。
鎧戸家の一階は、水を打ったように静まり返り、まるで誰もいないかのようでした。
……え?
鎧戸君、出かけた?
まさか、そんな、ねぇ?
「鎧戸君……?」
階段を降りると前方に玄関。
後方に廊下が伸びています。
廊下の方を振り返ると、その先にリビングやキッチンがあると思うのですが……真っ暗でした。
おやぁ……?
この先に鎧戸君がいるはずなんですが……
「鎧戸君……?」
呼びかけても返事はない。
本当に、誰もいないかのように……
ふと、鎧戸君の身に何かあったのではないかという不安がよぎりました。
下校前、鎧戸君は校門で多数の男子生徒に捕まり、どこかへと連れて行かれました。
平気だと言っていたけれど、本当は怪我でもしていて身動きが出来なくなっているとか、実は逃げる時に転倒して頭を打ったとか……
脳梗塞。
そんな恐ろしい病名が脳裏を過ぎり、わたしの心臓を軋ませます。
そんなはずない。
そんなことあるわけないと自分に言い聞かせるも、静か過ぎるこの家が不安を増幅させていきます。
他人の家をあまりうろつくのは褒められたことではないけれど……
「鎧戸君、ごめんなさいっ」
一言謝罪を述べ、薄暗い廊下を進みます。
格子に正方形のガラスがはめ込まれた引き戸の向こうにリビングがあり、その床の上に――薄暗くてよく見えないけれど――人が倒れていました。
横倒しになり、壁に背を向けて、丸まるように倒れている、男性のシルエット。
「鎧戸君っ!」
全身の血が一気に引いて鳥肌が立ちました。
電気の消えたリビングに倒れている人影は、はっきりとは分からないけれど、まず間違いなく鎧戸君でしょう。
わたしは、電気をつける間も惜しんでリビングに駆け込み、倒れている人影――鎧戸君に駆け寄ろうとして、コードに足を引っ掛けました。
リビングの壁から伸びるコードに足を引っ掛け、コードが「ピン!」っと張った時――
「ほぅっ!?」
――と、鎧戸君が声をあげて体を起こしました。
何かが起こっている。
けれど、何が起こっているのか分からない。
そんなパニックの中、近くに置かれたテーブルの上に電灯のものらしきリモコンを発見したわたしは、それに腕を伸ばしてリビングの明かりをつけました。
瞬間、明るくなる室内。
突然降り注ぐ真っ白な明かりに一瞬まぶたを閉じ、すぐに目を開けて鎧戸君の安否を確認しました。
慌てた様子でこちらに背を向けた鎧戸君は……お尻丸出しでした。
「リビングで何をしていたんですか!?」
先ほど部室で言ったのと似た発言を、わたしは再び口にしていました。