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35 打って変わって

 翌朝。

 いつものように自転車で学校へ続く下り坂を下っていると、前方に高名瀬さんを見つけた。

 昨日と同じように。


 どうやら、いつもこの時間に登校しているようだ。


 いままで気付かなかったのは、特に意識していなかったからかなぁ。


「おはよう、高名瀬さん」


 速度を落として声を掛けると、高名瀬さんは昨日と打って変わって晴れやかな笑顔で返事をくれた。


「おはようございます」

「その顔、妹さんと仲直りできたみたいだね」

「はい。おかげさまで」


 チョリッツ買い忘れ事件も、これにて一件落着か。


「実は、鎧戸君のことを家族にも話しまして」

「え、なんで?」


 まさか……、「わたし、好きな人が出来たんです。今度、お家にご招待するね☆」的な!?


「ご両親へのご挨拶、考えておかなきゃ!?」

「なんでそうなるんですか!?」


 違うらしい。

 盛大に突っ込んでから、顔を寄せて小声で訂正する。


「わたしがお世話になっているササキ先生の弟さんと同じクラスになって、その……友人になったと」


 なぜそこで照れるのでしょうか?

 僕をにやにやさせたいんですか?

 いいでしょう。盛大ににやにやして差し上げましょう。


「に、にやにやしないでください!」


 またそうやって照れる~。

 にやにやが加速しちゃいますよ、そんなの。


「と、とにかくですね、鎧戸君とは今後とも、何かと御縁がありそうですので、家族に話しておくべきだと判断したんです」

「そうしておけば、僕の家に来たって、姉がいるから安心だと思ってもらえるわけだね」

「そういうことです。あ、昨日は本当に助かりましたと、お姉さんにお伝えください」

「いいよ。高名瀬さんのことだから、もう十分感謝は伝えたんでしょ?」

「それは、まぁ……そうですけど」

「それより、『おやすみ~にゃ☆』ってなに?」

「わたしはそんなことは一言も言っていません」


 やっぱり姉の捏造だったか。

 ちょっとはおかしいと思ったんだよなぁ、高名瀬さんのキャラじゃないし。

 でも、ワンチャン『有り』かな、とも思っちゃったわけだけども。


「妹さん、喜んでくれてた?」

「はい。三つとも自分のだと、一本も分けてくれませんでした」


 あはは。

 ちゃっかりした妹さんだ。

 食いしん坊なところは、高名瀬さんと似ているのかな?


「それで、妹から鎧戸君にメッセージを預かっています」


 自転車を押して隣を歩く僕に、高名瀬さんはカバンから取り出した可愛らしい封筒を差し出してくる。


 これが下駄箱に入っていたらラブレターかと錯覚してしまいそうな、とっても女の子らしい封筒だった。


「下駄箱に入れておいてほしかった」

「朝から糠喜びさせるのは忍びないと思いましたので、直接手渡そうと決めていました」


 辛辣だな、おい。

 糠喜びって……


「拝見しても?」

「是非」


 許可を得て、妹さんからの手紙を開封する。

 中には、高名瀬さんと似てとても綺麗な字が並んでいた。

 幼い分、いくらか可愛らしい文字で書かれた手紙にはこんなことが書かれていた。



『よろい戸のお兄ちゃんへ


 チョリッツみっつもありがとう

 みんなとてもおいしかったです


 やさしいお兄ちゃん

 だぁ~いすき!


 またおかしくださいね


 えーびーより』



「高名瀬さん、小悪魔がいるよ!?」


 悪女の素質が垣間見える内容に驚愕だよ!?

 特に「やさしいお兄ちゃん だぁ~いすき!」に小悪魔の才能を感じる!


「……怖いわぁ。高名瀬姉妹、末恐ろしいわぁ……」

「わたしは違いますからね」


 いやいや、人の弱みを見つける手腕はなかなかのものでしたよ。

 こちらが確実に断れない状況に追い込む手腕とか、そっくりです。


「じゃあ、また貢がせてもらおうかな」

「ちなみに、わたしは福岡と金沢は食べてませんので」


 ほらこれ!

 次持ってくる時は自分用も忘れずにって、暗に!


「姉妹双方からむしり取られそう」

「ひ、人聞きが悪いですよ。わたしのは、ただの可愛いおねだりです」


 可愛いですか、そうですか、自分で言っちゃいますか。


「名古屋のはどうだった?」

「最強でした。妹に見つかっていたら、全部奪われていたかもしれないほどに」

「……あげなかったの?」

「……妹には、京都、福岡、金沢がありましたから」

「何気に、姉妹仲悪いんじゃ?」

「いいえ。ウチの妹は天使です」


 小悪魔になりかけてますけどね。


 とはいえ、チョリッツの在庫はそんなにないので、今度父に催促のメールを出しとかないとなぁ。







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