授業中、僕は体の重さを感じ、授業に身が入らなかった。
……あぁ、最近部室にいる時は高名瀬さんも一緒だからなぁ。
仕方ないといえば仕方ないのだけれども……
やっぱり、今後のことも考えてると、高名瀬さんには話しておいた方がいいか。
でも、姉に言われてるんだよねぇ。
「あんたの秘密を打ち明けるのは、あんたが自分のお尻を隅から隅まで見せても構わないと思える相手だけにしなさい」って。
高名瀬さん、僕のお尻に興味あるかな?
授業が終わったら、僕のお尻について話をしようと思っていたのだが――
「ちょっと、話あるから」
――授業終了と共に戸塚さんに捕まってしまった。
おぉう、ジーザス。
「ごめん。今、僕のお尻の一大事だから」
「なに? 腹でも壊したわけ?」
「違うけど?」
「じゃ、ツラかせ」
強引に僕の腕を引いて教室を出ていく戸塚さん。
その際、ちらっと高名瀬さんを見て――いや、睨んだような気がした。
廊下に連れ出された僕。
壁際に追いやられ、退路を絶たれる。
まさか――
「女子に壁ドンされる日が来るとは。さすが高校生」
「はぁ!? 意味分かんねぇこと言うなし!」
「じゃあ、言わないなし」
「あ゛ぁ゛っ!?」
ごめんって。
「なし」って語尾、ゆるキャラっぽかったからマネしたくなっただけなっしー。
「お前、高名瀬のなんなわけ?」
「クラスメイト」
僕の答えに、戸塚さんは眉間にくっきりとシワを寄せた。
「ただクラスメイトってだけで庇わないっしょ、普通?」
「いや、見てて不快になる行為を自分の席の真ん前でやられてたら注意するでしょう、普通?」
自分たちはクラスでも一目置かれている存在だと自負しているらしい戸塚さん的には、僕のような特に目立たない男が、クラスのカーストトップに君臨する自分たちに逆らうなんてあり得ない、よほどの理由があるに違いないと思っているっぽいが。
戸塚さんや、それを取り巻く派手な男子たちが束になってかかってきても、たぶん力では負けないし、陰湿な策略を張り巡らせてくるなら法的手段に訴えるし、ビビる理由なんてない。
「さっきも言ったけど、高名瀬さんが好きだから庇ったんじゃなくて、君たちにムカついたから追い払ったんだよ。『自分が嫌われるわけない』って君の中の前提を覆しちゃってごめんね」
この手の人って、自分が間違っているっていう可能性を端から除外してしまっているから話が噛み合わないんだよね。
君たちが嫌いで、ムカついたから排除したの。
今回、僕の高名瀬さんへの好意は関係ない。
「あたしら舐めてっと、痛い目みるよ?」
と、僕の胸ぐらを掴む戸塚さん。
その細い腕を掴もうと手を近付けると、慌てたように戸塚さんの腕が逃げていった。
青い顔で僕から距離をとる戸塚さん。
そんな顔で凄まれても、ねぇ?
「僕に痛い目を見せるというのなら、あなたと、あなたに協力しようって人全員に伝えておいて。『やってみろ』――ってね」
にこりと笑顔を向けると、戸塚さんは表情を歪ませて、僕を置き去りにして立ち去った。
あぁ……しかし、体が重い。
次の授業はサボって、部室だな。
僕は、響く予鈴を無視して部室を目指した。