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46 お手紙

『親愛なる4ナンバーズ 御岳連国君


 今日一日、君からの申し出について深く検討した結果、君からの要請に応えることにしました。


 ただし、条件がいくつかあります。

 以下の条件をすべて飲んでくれるのであれば、君の望むとおりにアークガレスで共闘いたしましょう。


 条件は二つ。


 お察しの通り、僕は自身の正体を隠してプレイする覆面プレーヤーです。

 なので、ゲーム関連で知り得た情報はすべて秘匿してください。

 身バレも困りますので、今朝のような過度な接触もやめてください。

 その代わり、アークガレスでは君の望む情報を提供しましょう。


 そして条件の二つ目は、高名瀬さんの参加です。

 実は、先日から高名瀬さんは僕に弟子入りをしました。

 まだまだ初心者ではありますが、僕は責任を持って彼女を育て上げると決めたのです。

 ですから、デスゲート・プリズンの隣には、いつも彼女がいます。

 多少足手まといになることがあるかもしれませんが、許容してください。

 彼女を弟子にする約束が先だったので、僕は彼女を優先します。


 以上の条件が飲めるのであれば、今度の日曜日、午後1時にアークガレスで会いましょう。


 追伸。

 高名瀬さんとの関係も他の人には秘密ですので、僕たちが何かをしているところを目撃しても見ないふりをし、口外しないよう努めてください。


 返事はいりません。

 アークガレスにて、待っています。


 デスゲート・プリズン』




 ――という手紙を、本日最後の授業時間に高名瀬さんによるピンポイント射撃で御岳連国君の机に飛ばしてもらった。


 突如、自身の机のど真ん中に飛来した手紙に驚愕して顔を上げた御岳連国君。

 僕は自席に座りながら体をひねって後方を向き、驚く彼に笑みを向けている。


 この正確無比な射撃を見れば、僕がデスゲート・プリズンであると信じてくれるだろう。

 ……射撃手は高名瀬さんだけど。

 バレないタイミングで放ったから、きっとバレてない。


 ……まぁ、その高名瀬さんは、僕がデスゲート・プリズンを名乗ることに難色を示して協力を一瞬渋ったけどね。


 あなたのためにやってるんだよ、僕は。

 だから、「わたしが弟子なんですか!?」とか「足手まといとはなんですか!?」とか、手紙の内容にいちいちクレーム入れてこないで!


 あなたがスマホを落としたせいだからね!


 ちらりと視線を向ければ、首だけをかすかにこちらに向けて、不服そうにほっぺたを膨らませていた。

「ぷしっ」ってするぞ、そのほっぺた。


 ちなみに、『アークガレス』っていうのは、モンバスの舞台になっている架空の大陸の名前らしい。

 手紙を書く時、高名瀬さんに教えてもらった。




「おぉ……っ!」


 手紙を読み終えた御岳連国君が、思わずと言った風に声を漏らす。

 その声に反応して何人かが御岳連国君の方へ顔を向ける。


「なんですか?」


 授業中の教師がこちらへ視線を向け、険のある声を飛ばしてくるが、御岳連国君は慌てる様子もなく、「なんでもない。ちょっと腹が痛かっただけだ」と涼しい顔で嘘をついていた。


 数名のクラスメイトが御岳連国君を見ていたおかげで、体をひねって後方を見ていた僕もお咎めなしだった。

 紛れたね、見事に。


「授業を再開します。みんな、前を向きなさい」


 教師の声に、クラスメイトがそれぞれ前を向く。

 僕も体を前に向ける。……その前にちらっと御岳連国君の顔を窺えば――「ぐっ!」っと力強いサムズアップが、満面の笑みと一緒にこちらへ向けられていた。



 返事、もらっちゃったな。



 とりあえず、これで本日のミッションは完了。

 この後は、高名瀬さんとポムバでシェイクだ。



 ……と、思っていたら。



「ちょっと、どういうこと?」


 またしても、戸塚さんに行く手を阻まれた。


「また僕に用?」

「お前じゃねぇよ!」


 すごい剣幕で僕を睨みつけたかと思うと、その視線を高名瀬さんへと向けた。


「お前さ、さっきの時間、レンゴクに手紙回したろ?」


 見られてた!?

 しかも、それを御岳連国君の前でバラすんじゃないよ!


「見間違いじゃない? 高名瀬さんがそんなことする理由なんてないし」

「見たんだっつーの! そいつが輪ゴムを使って手紙を飛ばすとこ!」


 なんで見てんのかなぁ?

 授業は真面目に受けなよ。

 人のことは言えないけども。


「そんなに高名瀬さんのこと見つめてたの?」

「はぁ? んなわけねぇだろ!」

「じゃあ、御岳連国君のことばっかり見てたの?」

「ぅぐっ……か、関係ねぇだろ!?」


 それは、自白と一緒だって。

 まったくもぅ、恋する乙女なんだから。

 ……乙女というには、口、悪過ぎだけど。



 しかしまいった……


 これで、デスゲート・プリズンは僕じゃなく高名瀬さんだということがバレたかもしれない。


「とにかく! どういうことか説明してくれる!?」

「ぇ…………っと」


 高名瀬さんに詰め寄る戸塚さん。

 あぁ、もう……毎日毎日僕たちにトラブルを持ち込んで……一体なんの恨みが……あぁ、そっか恨みがあるんだっけ? 恨みというか、確執が。


「戸塚」


 どうしたもんかと頭を捻っていると、思いも寄らないところから援護射撃が飛んできた。


「俺は手紙なんか受け取ってないぞ」


 御岳連国君が立ち上がり、戸塚さんにそう証言した。


「で、でも、アタシ見たし……」

「俺がもらってねぇって言ってんだ。誰か別のヤツに宛てた手紙だったんじゃないか?」

「けど………………分かった」


 御岳連国君にじっと睨まれ、戸塚さんが折れた。

 授業そっちのけで見つめちゃうくらいに惚れてるメンズに言われると、逆らえないものらしい。


 すごいなぁ。

 僕にもいないかなぁ、そんな熱烈な視線を向けてくる女子…………高名瀬さんと目が合うと、めっちゃ逸らされた。


 ……逸らされたなぁ、今。


 誰にも注目されていない僕の隣を、御岳連国君がゆっくりと通り過ぎていく。

 そして、通り過ぎざま――


「狙撃の練習は、モンバスの基本。早速弟子に練習させていたのか。さすがだな、デスゲート」


 ――と、他人には聞こえないように小声で言った。

 ニッと、口角を持ち上げて、こちらに視線だけを向け、御岳連国君は教室前方のドアから出て行った。


「あっ、待ってよ、レンゴク!」


 戸塚さんが慌てて後を追い、僕と高名瀬さんの隣を通り過ぎる時、「キッ!」っと睨んでいった。


 ……恋するのは勝手だけど、周りを巻き込まないようにしてもらいたいものだなぁ。



 とりあえず、うまいこと勘違いしてくれたようなので、結果オーライ、かな?







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