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49 晴天堂アタッチ

「とりあえず、ゲーム機本体とモンバスのゲームを買いに行かないとね」


 ゲーム機がなければ、そもそもプレイできないし。


「それのゲーム機って幾らくらいするの?」

「39800円です」

「あれ、結構安い?」


 前に見た何かのゲーム機は八万円くらいしてたから、「最近のゲームは高いんだなぁ~」って思っていたのに。


「『アタッチ』ですからね」

「あたっち?」

「こういうゲーム機です」


 と、高名瀬さんがスカートのポケットから携帯ゲーム機を取り出す。


 ……スカートって、ポケットあったんだ。


「そのスカートって、ゲームを入れられるようにカスタマイズしたの?」

「スカートのポケットは初期装備です」


 標準装備じゃなくて初期装備って言うところが高名瀬さんだよね。

 確実に、後ほどカスタマイズする前提だもん。


「こんなに小さいんだ」


 そのゲーム機は、両手に収まるくらいの小ささで、さすがにスマホよりかは大きいけれど、僕の知るゲーム機と比較すればかなりの小型だった。


「八万円くらいするのもあるよね?」

「あぁ、それは別の会社のゲーム機で、もうすぐ後継機が発売されますよ。価格は十二万です」

「高っ!?」

「あのゲーム機はそこら辺のパソコンよりも高性能ですからね」


 パソコンより高性能なゲーム特化のマシン。

 そりゃ高くもなるか。


「本体のスペックこそ及びませんが、この『アタッチメント』はソフトが充実していて、操作性も素晴らしく、パフォーマンスは充分な名機です」


 おぉ……まるでゲーム会社の営業さんみたいな熱烈なる売り込み。


「でも、お高いんでしょう?」

「それが、今なら39800円のところ、わたしのクーポンを使用して五千円引きの34800円でのご提供です!」

「安ぅ~い!」


 拍手して囃し立てると、高名瀬さんが「ぷふっ!」っと吹き出した。


「何をしているんですか、くだらない」


 君もノリノリだったじゃない。


「でもいいの? またクーポンもらっちゃって」

「問題ありません。晴天堂ともチェーンのお友達登録していますし、ソフトならともかく、本体はもう買いませんので」


 晴天堂っていうのは、アタッチの発売元であるゲーム会社の名前だね。

 僕が少年時代にハマって、高名瀬さんがいまだに完全クリアを目指してプレイしている『ペアモン』を作ったのも晴天堂だ。


「高名瀬さんは、有名企業のお友達が多いんだねぇ」

「……うるさいですよ」


 それ以外のお友達は、そんなにいないらしい高名瀬さんがシェイクをじゅぞぞっと飲み干す。


「ちょっと見せてもらってもいい?」

「どうぞ。あ、ポテトの脂をつけないでくださいね」

「はいはい」


 指を拭いて、高名瀬さんのアタッチを受け取る。

 ――と、「ぴん!」っと充電コードが張り、高名瀬さんのブラウスの裾が持ち上がる。


「きゃっ!?」


 と、可愛らしい声を上げてブラウスの裾を押さえ、慌てて充電コードを本体から引き抜く高名瀬さん。


 充電コードがブラウスの下から伸びていたってことは…………充電してたな? 自分のコンセントを使って。


 じぃ~っと顔を見つめると、高名瀬さんはそっぽを向いて下手な口笛を吹き始める。

 おそらくだけど、モンバスのBGMだろう。

 この人、直前までやってたゲームの影響受けまくるから。


 とりあえず、僕はまだ残る自分のポテトを、すっかりと食べ尽くされた高名瀬さんのポテトの空箱の前に差し出す。


「よければどうぞ」

「……ありがとうございます」


 やっぱお腹空いてたね。

 電源使うとお腹すくんだもんね。


 ……自重って言葉、覚えようか?







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