「こちらが領収書になります」
と、使用した金額を証明するためにレシートを手渡してくる高名瀬さん。
律儀だな。
数百円くらい、勝手に使っちゃえばいいのに…………136円!?
「え、安くない? セットだよね?」
「680円の八割引きです」
「クーポン破産しちゃわない、この店!?」
ちょっと経営が心配になってきたよ!?
「ごちそうさまです」
「まぁ、こちらの失言による賠償だから、気にしないで」
「……むしろ、鎧戸君は十二分に気にして、充分反省してください」
「はい。すみません」
僕に財布を返却し、「一応、中身の確認をお願いします」とか言ってくる高名瀬さん。
盗んでるとか思わないから。
というか、そこまで気にするなら人の財布を持ち出さないように。
「まったく……」
ちょっと呆れつつ、言われた通り財布の中を確認する――と、お札のところに紙が入っていた。
カウンターで自由にもらえる紙ナプキンに、ピンクのボールペンで、『勝手に使ってごめんね?』という文字と一緒に高名瀬さんらしきデフォルメキャラが描かれていた。
「可愛いな!?」
なに、これ?
めっちゃ可愛いんだけど!?
「よかった……すごく練習したんです」
いや、このキャラも可愛いですけど、こういうことをするあなた自身が可愛いんですよ!
本体が!
「帰ったら額に入れて飾っとこう」
「読んだら捨ててくださいよ、そんな落書き!」
えぇ~、もったいない。
クラスの女子からの手書きメッセージなのに。
「あの……授業中の手紙を、なんとなく喜んでいたようでしたので……こういうの、欲しいのかと……」
「めっちゃ欲しい! 今後、積極的にお願いします!」
「そんなに食いつくようなものではないと思うのですが……」
何を仰る高名瀬さん!
「たぶん、この紙を食べたら甘酸っぱいと思う」
「それはないです」
呆れてため息をつく高名瀬さん。だけど、なんだか機嫌が良さそうなのは僕の気のせいかな?
「それで、どうですかモンバ……鎧戸君、ダメージ食らってますよ!?」
高名瀬さんが帰ってきて、テーブルに置いたアタッチの画面の中で、デスゲートがなんか巨大なイモムシに頭からバリバリ齧られていた。
「すごいね、デスゲート。全然ダメージ受けないの。守備力高くて安心だね~」
「それでも、無防備に攻撃されたら死んじゃいますよ!? わたし、一度もデスペナ食らったことないんですからね!?」
とか言いながら、手早くゲーム機を取り上げ、ちょっと何がどうなってるのか分からない速度で指を動かし、あっという間に巨大イモムシを撃退する高名瀬さん。
すごいテクニック。
最強の名は伊達じゃない。
「……低レベルのサンドワームでよかったです」
ほっと息をつきつつも、画面中央のHPバーを見て頬を引きつらせる。
「わたし史上、最大ダメージです、これは」
残りHPを示すバーは、三分の一くらいにまで短くなっていた。
「……特訓が必要ですね、鎧戸君」
うん。
僕もそんな気がする。
「そもそも、攻撃しようとしたらジャンプするのはなんで?」
「ボタンを間違えてるんですよ」
おぉ、そうか。
果敢に巨大モンスターに接近し、目の前で垂直ジャンプして無防備に殴られるという奇行を繰り返してしまった。
やっぱり、操作方法は事前に聞いておかないといけないね。
「今日の帰りにゲームを買って、明日の昼休みと放課後に部室で特訓しよう」
明日は金曜日。
御岳連国君との約束は日曜日なので、金曜日に教えてもらってから、土曜日一日練習しようと思う。
「では、時間がありませんね。移動しましょう」
ハンバーガーをカバンにしまい込み、ポテトとドリンクを持って席を立つ高名瀬さん。
時間がないって……
「ゲーム屋さんなら、すぐそこにあるよね?」
「あのお店は周辺機器が弱いんです。電車で二駅先まで行きますよ。小さいけれど、マニア向けのアイテムが揃っている行きつけのお店があるので案内します」
マニア向けって……
「ド素人のド初心者なんだけど?」
「あるとないとじゃプレイに雲泥の差が出るので、揃えておいた方がいいです。わたしたちの腕前は、可能な限り近付けておく方が、いざという時にボロが出にくいと思いますので」
まぁ、僕が高名瀬さんのようなプレイをするのは不可能だし、上手過ぎる高名瀬さんが素人のふりをするのも難しいだろう。
とはいえ、高名瀬さんレベルには十年かかってもなれないと思うけどね。
「ほら、行きますよ、鎧戸君」
「はぁ~い」
けど、こころなしかわくわくした表情の高名瀬さんと電車に乗って隣町まで買い物に行くっていうのは、……うん、悪くない。
それじゃあ、制服デートの延長戦を楽しみに行きますかね。