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52 電車でGoing!

 駅前の道、僕の数歩前を「早く、早く」と急かしながら歩く高名瀬さんと進む。

 なにこのむずむずする感じ。


 制服デート、最高じゃないか!


 行きつけのゲームショップに行くのが楽しみなのか、高名瀬さんは終始楽しそうだ。


「鎧戸君は切符買いますか?」

「いや、交通系IC持ってるよ」


 ちゃんと満額チャージしてあるので、今から新幹線に乗るとか言い出さない限りはどこへだって行けると思う。


「じゃあ、行きましょう」


 と、自身の交通系ICを取り出して改札へ「ぴっ!」とする高名瀬さん。


 ――を、改札を出たところで止める。


「出しなさい」

「へ? なんですか?」

「今、カバンにしまった物を出しなさい」

「ただの交通系ICですよ?」


 と差し出された交通系ICは、とってもビビットなカラーリングのイルカが描かれた物凄く目を引くデザインのケースに入れられていた。

 そのイルカは、僕でも知っているような有名なゲームのキャラクターで、プレイ人口が結構多く、たしかこれも世界大会が頻繁に行われるくらい世界的に大ヒットしていたと思う。


 ただ、そのイルカが王冠をかぶっていたので、ちょっと嫌な予感がしたんだ。


「ちなみに、これは?」

「それは、昨年の『スプラッシュタウン世界大会inパキスタン~世界を塗り替えろメガスプラッシュ!~』で好成績を残したプレーヤーに贈られた限定100個のパスケースで――」

「貴様、他にも世界大会で優勝したのか!?」

「た、確かに優勝はしましたが、このパスケースは世界中で100人の人が所持していますから、これだけで身バレすることはほとんどないはずです!」

「世界で100人でも、日本限定にすると何人いるのさ?」

「…………案外、クラスに二~三人いるかもしれませんよ?」


 いるわけもなく。


「没収」

「酷いです、鎧戸君!?」


「なんの権限があって!?」とか訴えてくる高名瀬さんだが、……こういうところからゲーマーがバレて、また今回みたいな面倒事に巻き込まれる未来がありありと見えるんだよ、僕の脳裏にね!


「あとで僕が別のケースを買ってあげますから、これの使用は控えてください」

「え……プレゼント……して、くれるんですか?」


 まぁ、僕の希望で使用を禁止するわけだし、代わりになるものくらいはプレゼントしないとね。


「何か可愛いのを選びますから、それで我慢してください」

「…………」


 使用禁止が不服なのか、高名瀬さんは俯いたまま言葉を発さない。


 ん~……どうしたものか。

 なんて悩んでいると、高名瀬さんがぽつりと言葉を発した。


「……わたしも、一緒に選びます」


 控えめな主張。

 でも、こちらの要求は飲んでくれるようで、ならば、そちらの要求を飲むことに否はない。


「じゃあ、あとで雑貨屋さんにでも行きましょう」

「……はい。では、あとで」


 声が小さくなったので気落ちしているのかと思いきや、こっそりと窺った横顔は、口元がゆるんっと弧を描いていたので特に不機嫌そうということもなかった。


 とりあえず、高名瀬さんが好きそうな可愛いパスケースを探してみよう。


「では、急ぎましょう! 雑貨屋さんも回るとなると時間がありませんよ」


 すべて今日中に消化するつもりなのか、高名瀬さんが僕の腕を掴んで急かすように引っ張り、階段を駆け上がっていく。

 まぁ、あのパスケースはなるべく早めに封印した方がいいからね。

 今日中にいい物を見つけてプレゼントしよう。


 ただ、階段の隣にエスカレーターがあるのだから、そっちを使いたかった。

 そこは、軽く主張しておこう。

 呼吸の乱れが収まったら……




 その後、2番線のホームから電車に乗り、二駅先の駅へ向かう。

 僕たちは扉の前に陣取って流れる景色を眺めつつ他愛のない話をした。


「スプラッシュタウンというのは、街中を色絵の具で塗りつぶしていくゲームなんですが、武器選びの時点で勝負は決まっていると言っても過言ではなく、わたしは主に巨大刷毛を使用するんですが、これは遠くに色絵の具を飛ばせないので一見不利に見える道具ではあるのですが実はすごく効率よく色を塗るテクニックがありまして――」


 ……できれば、もうちょっと高校生らしい会話を楽しみたかったような気もするけれど。


「日曜日のオタケ君クエストが終わったら、スプラッシュタウンの特訓もしてあげますね。わたしの訓練は厳しいですので、覚悟しておいてくださいね」


 なんて、楽しそうに話す高名瀬さんをこうして独占できるのであれば、それはそれでいいかもしれないな、なんてことを思った。







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