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第2話

「あーあ、なんかうまくいかないわね」


 マリナは花に話しかけるのも飽き、草むらに寝転がる。

 なんだかうまくいかなくてイライラする。

 マリナは実はこの世界の住人ではなかった記憶がある。前世の記憶だと思われた。

 生まれ変わる前、自分は転生もののラブストーリーが好きで、乙女ゲーや小説、漫画など色々読み漁っていた。まさか自分がなれるとは思っていなかった。前世の記憶があったとしても、自分はこの世界でも平民でしかなく、モブでしかなかった。

 だが、自分が伯爵家の娘であることが分かった時、夢が叶ったと思った。

 自分はヒロインポジションだと。

 前世の記憶持ちで、平民から伯爵令嬢に。こんなのヒロインポジションに決まっている。

 この学園で、私はヒロインなのだと。

 マリナはそう思って疑わなかった。

 乙女ゲーや小説、漫画で見たようなヒロインの行動を真似し、見た目的にも推しである皇子にアタックしてみるが、袖にされ続け、怪訝な目しか向けられない。

 悪役令嬢と思われる女にいじめられるミッションらしきものもうまくいかないし……

 なんだか楽しくない。

 全部、あの女のせいだ。

 公爵令嬢で、皇子の筆頭妃候補な上に生徒会副会長というチートキャラ。絶対、私のライバルキャラだ。

 あの女が悪役令嬢として私をいじめないからいけないのよ。

 あの女が私をいじめて、皇子に幻滅されて婚約破棄されて島流しにでもされて、私は皇子と愛を育むの。

 そういうストーリーなのよ、この世界は。

 なのに何なのよ、あの女!


「マリナさん!」


 名前を呼ばれ、ハッとする。

 公爵令嬢が怒った表情でこちらを見下ろしている。

 やっといじめる気になったのね。

 人目につかないところでいじめるなんて、やっぱり陰険なんだわ。

 マリナはそう思って、内心ニヤリとしていた。


「リリー様、ごめんなさい。私、また何か間違ったことをしてしまいましたか?」


 ビクビクした様子のマリナ。だがこれは許せない。 


「なぜ花壇をこんなに荒らしたのですか!」


 花壇はめちゃくちゃである。花は折られ、花びらが散っていた。


「私じゃありません。誰がこんなひどいことを……」


 泣き真似をするマリナ。花壇を荒らしたのはマリナである。むしゃくしゃしたからやった。ただそれだけだ。


「そう、違うのね。言いがかりをつけてごめんなさい。私が大事にしていた花だったので……」


 本人が違うと言うのを、証拠もなく叱りつけるわけにもいかず、リリーは花壇から花びらを拾う。大事に育てた花は、亡くなった母のお気に入りだった花だ。こんなになってしまったからには、もう押し花にするくらいしか思いつかない。

 学園に彩りができればと植えただけである。

 また他の花を植えれば良いだろう。


「リリー? どうしたんだい? この花壇は。君が大事にしていた花壇だろう?」


 急に声をかけられ、顔を上げる。レオンだった。


「ええ、何か犬や猫にでもやられたのでしょう」

「犬や猫がこんなことをするわけはないだろう。泣いているのかい?」

「いえ、次は何を植えようか考えていました」


 花びらを集めるリリーは泣いていないと言い張るが、視界が歪んで見える。涙が溢れてしまっていたが、恥ずかしくて否定した。

 見られたくなくて、ずっとうつむき、ひたすら花びらを集める。押し花にするには多すぎるし、ポプリにもできそうだ。 


「レオン様、リリー様は私がしたと言いがかりを言うのです。私ではないと言っても信じてくださらなくて、きっと私がお嫌いなんだわ。さっきもマナーがなってないと、私が平民出だから教養がないと言うんです。お茶会だって私だけ仲間外れにしたんですよ!」


 突然、泣き出してレオンに抱きつくと、リリーがひどいと訴えだすマリナ。

 リリーは呆然としてしまう。


「そういう風に取られてしまったのなら申し訳ありません」


 私の言い方が悪く誤解させてしまったのだろうかと、謝るリリー。


「抱きつかないでくれる。迷惑なんだけど、君が教養がないのは間違いないよね。それから花壇を荒らしたのも君だろ?」


 レオンは冷たく言うとマリナを振り払い、汚物を見るような視線を投げつける。


「レオン様、決めつけるようなことは……」

「証拠はあるよ。マリナ嬢の靴、汚れているね。なんでそんなに汚れているのかな? 花壇の土と照合してみようか」


 レオンのセリフに青ざめるマリナ。


「わざわざ君の足跡を消そうと花壇に踏み入ったリリーに免じて、見なかったふりをしてあげるから、僕の目の前から消えて」 


 「フフッ」と笑っているが、笑顔が怖いレオン。なんだかリリーまで胃が痛くなる。

 マリナは「ヒエッ」と悲鳴を上げて逃げるようにいなくなった。


「ごめんね、リリー。僕がもっと早く来ていれば。実は二階から見ていてね。ここまで来るのに時間がかかっちゃったんだよ」

「目撃されていたんですね。良いんですが、彼女は何故花を蹴散らしたんでしょう。慣れない環境でストレスを感じているのでしょうか」

「彼女のことは僕にもよくわからないよ。良い病院でも紹介してあげようか」


 「頭がおかしい」と、マリナにはレオンも頭を抱えるしかなかった。王族である自分への態度もおかしければ、リリーに対してなんかはもう嫌がらせをしているとしか思えない。

 レオンはマリナが目障りであるし、環境が合わないならば、いっそ退学させてしまおうかとも考えたりした。だが、マリナは変であるが、マリナの父親である伯爵も母親の夫人も良い人であるし、リリーも反対する。


「マリナさんは少し個性的なだけですよ」


 そう笑うのだ。リリーが良いと言うのだから、もう少し様子を見るしかないだろう。

リリーに何か危害でも加えられたらと、レオンは気が気ではなかった。


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