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第3話

 皇子の攻略は難しそうね。全然、親密度が上がらない。むしろマイナスだわ。

 マリナは深いため息を吐く。仕方ない、とりあえず攻略対象を変えよう。きっとこの世界の物語では皇子の攻略はシークレット並の難しさなのだ。それは追々探していくしかないようだ。

 マリナが目を付けている男は他にもいる。この時間なら、おそらく図書室にいるだろう。彼は本の虫だ。


「今朝、花壇を見ましたよ。虫の居所でも悪かったんですか?」

「私がしたんじゃありません。今の時期ですと、どんな花が良いでしょう?」

「エディブル・フラワーにしては?」

「エディブル・フラワー?」

「食べられる花ですよ」

「面白そうですね」  


 図書室では、既に本の虫の彼と、悪役令嬢が話をしている。

 また邪魔された。

 ムカムカしてしまうマリナ。


「あーん、あの本が取れない~。取ってくださーい」


 マリナは必死に上の本を取ろうと背伸びする。


「どれですか? ああ、乗り物百科事典ですね」


 彼が気づいてこちらへやってくる。

 彼は図書室長であり、生徒会書記のアランだ。知的な眼鏡の美形である。

 皇子には負けるが、なかなかのイケメンだとマリナは思っていた。

 推しナンバー2だ。


「はい、どうぞ」


 笑顔で本を取ってくれる。皇子とは違って、すごく私にも優しくしてくれる。

 彼は私のことが好きだと思う。

 絶対に落とせる。

 ざまあみろ悪役令嬢め。

 ふふーんと、悪役令嬢に視線を向けるマリナ。


「リリー、これがエディブル・フラワーの辞典です。この時期だとこれとか良いんじゃないですか?」

「うん、会長に相談してみましょう」

「花壇のお花くらい好きにしても良いと思いますけど」

「会長はやたら好き嫌いが激しいじゃないですか。『食べられる花など邪道だ!』とか言いません?」

「言いそう」


 アハハと笑うアランに苦笑するリリー。仲が良さそうで腹が立つマリナ。

 私を無視してんじゃないわよ!


「アラン様~、私にもおすすめの乗り物教えてくださーい」


 そうアランを呼ぶマリナ。

 おすすめの乗り物とは? しかし、たまたま取ったのが乗り物の本で、乗り物についてしか聞けない。もっとちゃんと選ぶべきだったと後悔するマリナだ。


「ごめんなさい。僕、乗り物のことはよくわからないんです。馬車くらいしか……」

「マリナさんは何の乗り物を調べているんですか? 用途などを教えていただけたら、何か助言できることもあるかもしれません」 


 マリナの質問に困るアランと、何か力になれるのではと親切心で聞くリリー。

 なぜかマリナに睨まれた気がする。


「えっと……」


 マリナも乗り物に詳しくなければ、使う予定も買う予定もない。

 何も言えなくなってしまう。


「あら、ごめんなさい。私、そういえば会長と約束がありました。うっかりしちゃったわ!」


 リリーは、もしかしてマリナがアランと二人きりで話したいのではと察し、気を使って出ていこうとする。

 きっとそれで睨まれたのだと察した。


「え? 待ってリリー。そう、僕も会長と約束がありました。今思い出しました。申し訳ありませんが、失礼いたします、マリナ嬢」

「え? アランも?」

「そうそう、一緒に行きましょう」


 そそくさと二人で図書室を出ていき、ポツンと残されるマリナ。 

 何なのよ!

 あの悪役令嬢!

 皇子だけではなく、アラン様にまで色目を使うなんてふしだらな女ね!

 そう、自分のことは棚に上げ、リリーを妬むマリナだった。




「ごめんなさい、アラン。本当は私、会長に呼ばれてないの」


 廊下を生徒会室に向けて歩いていたが、リリーは申し訳なくなり謝る。


「ええ、僕も呼ばれていません」

「え?」


 アランも呼ばれてないの?


「僕、マリナ嬢は苦手でして……」


 ため息を吐くアラン。


「本を取ってくれとよく頼まれたり、本が重たいと呼ばれたり、勉強を教えてくれと言われたり……」

「あら、女性が困っていたら助けるものですよ。それを嫌がるだなんて、アランを見損ないました」 


 まだアランは子供なのだと、呆れてしまうリリー。

 だがアランは心外であった。


「誤解しないでください。僕だって本当に困っていたら助けますよ。彼女の場合は僕の気を引きたくて言っているようなので、うんざりしてしまって」

「女性が好意を寄せてくれていると言うのに、無下にするのですか?」

「そんなこと言われても……」


 困った様子のアランが少し可哀想になるリリー。

 嫌なものは嫌なのね。

 それは仕方ないわよね。

 無理を言うのは良くないわ。

 しかし、アランが会話をするのは自分と会長ぐらいなものである。

 人見知りが激しいのだ。

 日がな一日を図書室で過ごしてしまっている。

 そこは少し直した方が良いのではないかと、リリーはお節介な事を考えていた。


「マリナさんにも困りましたね。アランはまあ良いとして、皇子にまでしつこく付きまとうようで。交友関係の結び方がわからないのでしょう。素直で良いとは思いますけど……私が注意しても怖がられてしまいますし」 


 思わず、ため息が漏れてしまうリリーだ。

 このままではマリナは孤立してしまう。何とかしてあげたいとは思うが、注意しようにも自分の言い方が悪いのか、うまく理解してもらえない。


「ちょっと待ってくださいよ。確かに皇子にしつこく迫るのもどうかと思いますが、僕も良くありませんよ」

「まあ、そう嫌がらないであげてください。転校生でまだ学園にも慣れていないんですよ。卒業まで一年もありませんし、アランが面倒を見てあげてください」

「なんで僕が!!??」


 苦手だと言っているのに!

 リリーは僕の話を聞いてくれてないのか!?

 アランは頭を抱えたくなった。

 リリーはただ単にアランの人見知りが直せるかもしれないし、アランは物知りで礼儀正しくもあるので、マリナの教育係に良いのではないかと考えての事である。


「勉強を教えてあげる約束をしたんですよね?」


 さっき、そのような事を言っていた。


「断りました! 女性と二人きりになるなんてできませんよ」

「あら? 図書室で二人きりになるくらい良いじゃないですか。私とはよく二人きりで話しますよね? それとも何ですか? アランは私を男だとでも思っていたんですか?」

「そんなことは……いや、確かにリリーは男勝りですけど……」

「あら? 何ですか?」


 「フフッ」と笑って見せるリリーだが、笑顔が怖いと思うアランだ。


 会話しながら歩いていると、結局、生徒会室に着いてしまった。

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