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第4話

「リリーです、会長おられますか?」


 コンコンと、ノックしてみる。


「ああ、入れ」  


 どうやらいたようだ。ここまで来たのだから花の話をしよう。

 それから何か手伝えることがあれば手伝えれば良い。

 そう思いながら、リリーはアランと生徒会室のドアを開けるのだった。


「花壇の件だが残念だったな。リリー」


 会長であるロイは、今朝花壇を見て、リリーに何と声をかけたらいいか迷い、結局何も言えず今に至っていた。


「いえ、エディブル・フラワーを代わりに植えても良いですか?」


 リリーは思いのほかあっさりしている。お気に入りの花壇ではあったが、もう心残りはなさそうだ。


「エディブル・フラワーとは何だ?」


 もう次の花を植えるのか。


「食べられる花だそうです」

「食べられる花?」


 ロイはギロリとリリーの隣にいるアランを睨む。

 本の虫であるアランの入れ知恵だろう。


「花を食べるなんて野蛮だ。花が可哀想だろう」


 花は愛でるものであり、食べる物ではない。皿に乗っていても食べる気にはなれないだろう。


「紅茶に浮かべて飲んだりもできますよ?」


 そうアランが助言するが、ロイはそういうことではないと思う。


「愛でられる花がいい!」

「わかりました。では何がよろしいのですか?」


 ロイの言葉に、リリーは折れることにし、希望を聞く。


「チューリップで良いだろう」

「チューリップは季節ではありませんので」


 もうすぐ春は終わり、夏になる。


「サンフラワーは?」

「サンフラワーですか……」


 確かに少し早いが、苗から植えるにはちょうど良さそうだ。


「良いですね、サンフラワー。種が美味しいですね!」


 アランも賛成のようだ。


「アランはどうしても食べられる物が良いみたいですね」


 「フフッ」と笑ってしまうリリーである。


「まあ、種なら良いか」


 ウムウムと頷くロイだ。


「そうです、そうです!」


 アランはなんだか楽しそうだった。


「では、花はサンフラワーを植えることにしますね。話を変えまして、何かお手伝いできる仕事はありますか?」


 リリーは話を生徒会の話に変える。


「いや、今日は俺ももう帰る」

「では、資料の片付けを手伝いますね」

「ああ」

「アランは……掃除でもしててください」


 アランはおっちょこちょいなので、よく資料をばらけさせる。

 これでよく図書室の本はバラけさせないものだと思う程なのだ。

 リリーは箒を渡して掃除をさせることにし、自分はロイと資料の片付けをするのだった。

 なんだか自分だけ仲間外れにされたようで面白くないアランであったが、掃除だけでもちゃんとやってリリーに見直してもらおうと頑張った。

 だが結局、最後にバケツにつまずいて水浸しにし、リリーに怒られるのだった。





 サンフラワーの苗を用意したリリーは、早速花壇に向かった。肥料などを入れ直し、土と混ぜる。

 花壇整備も畑を耕している感じと同じで楽しい。リリーは土いじりが好きなのだ。


「あら、立派なミミズちゃんが出てきたわ。良い土壌を作ってくれてありがとう」

「こんにちは」

「あら、サラスさん、今日も来てくれたんですね。花がなくてごめんなさい。今植えますね」


 話しかけてきたのは、いつもフードを被っていて不思議な様子のサラスだった。

 顔はよく見えず、陰気そうでいつも一人でいるが、リリーにはよく話しかけてくれる。

 花が好きらしく、よくこの辺りで本を読んだり昼寝をしていたりするのを目撃するのだ。


「私も手伝う」

「本当ですか? ありがとうございます。あとは植えるだけなので。今度はサンフラワーにしてみました」

「綺麗。リリーちゃんみたい」

「サンフラワーがですか?」


 まだ蕾なのだが。


「花が全部。見てると癒されて明るくなれる」

「お世辞が上手ですね」


 「フフッ」と笑うリリー。


「お世辞じゃない」


 信じてくれないと、「シュン」としてしまった様子のサラス。

 サラスはなんだか小動物みたいで可愛いなあと思うリリーだ。


「では、私が穴を掘るので、サラスさんが苗を植えてください。ポットの後ろの穴を押すと出てきますからね」

「えっと、えっと?」

「やってみせます」


 リリーは、穴を掘りポットから苗を出してみせ、植える。


「わぁ、すごいね。やってみる」


 サラスも真似してやってみる。


「上手にできましたね」


 ちゃんと植えられた。フードで顔は見えないが、心なしか喜んでいるように見える。きっと今、サラスは笑顔を見せているのだろうなと思うと、フードで隠れているのがもったいない。

 どんな表情をしているのだろう。

 だが、隠している相手にフードを取って顔を見せてと言うのはあまりにも無礼すぎるだろう。

 リリーはグッと言葉を飲み込み、穴を掘り、サラスが苗を植える。


「できました。やっぱり花壇に花が植わっていると心が安らぎますね」


 最後の一株を植え、「フーッ」と一息つく。

 まだ蕾だけど、咲くのが楽しみだ。


「リリーちゃん、お疲れ様」

「サラスさんもありがとうございました。サラスさんのおかげで早く植えられました」

「楽しかった」


 あ、サラスさん、きっと今も笑っている。

 口元でわかる。


「そうだ、これからお時間ありますか? 手を洗ったら一緒にお茶でも……」

「あう、嬉しいんだけど、もうお迎えが来る時間。また今度誘ってね。ううん、私が誘うね」

「まあ、ごめんなさい。お時間でしたのね。従者さんをお待たせしてませんか?」

「うん。大丈夫。また明日」


 サラスは手を振って離れていく。リリーもサラスに手を振り返して見送るのだった。

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