目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 人生を23歳で詰んでしまった俺。

俺は大学に入るタイミングで東京に出てきた。

田園風景に囲まれた田舎の地方出身の俺にとって東京は刺激があって夢のような場所だった。


大学の4年間は色々バイトをしたり、仕送りもあったし楽しかった。

しかし、なんとか就職した派遣会社がブラック企業だった。


土日も返上で働き、大学時代から付き合っていた彼女ともなかなか会えなくなった。

「お前が残業しなきゃならないのはお前がまだ半人前だからだ。一人前になるまで残業をつけるな!」

そう言われて残業代もつけられなかった。

終電まで残業をする毎日で、帰宅してからも持ち帰った仕事をした。


パワハラ、セクハラ、ありとあらゆるハラスメントを受けた。

女だったらマタハラも加わってくると思うとゾッとした。

社会人になって半年で俺は完全にメンタルをやられてしまい退職をした。

会社を辞めたしたことを、彼女に報告すると音信不通になった。


俺は誰もが知る有名私立大学の文学部を卒業していた。

俺の失敗は大学に入ることを、夢の東京に出る手段としか考えていなかったこと。

学部選びも本が好きという理由だけで文学部を選んでしまった。

この選択をのちに俺は後悔をした。


文学部は女子がほとんどだった。

語学のクラスに2人しか男子がいないので、常にモテて彼女もすぐにできた。

就職活動には苦戦たので、手当たり次第受けて内定が取れた会社に入った。

就職には経済学部とかの方が有利だったらしい。


会社を半年でやめてしまってから、俺は途方に暮れていた。

とにかく、東京の高額な家賃を払うために働かなければならなかった。


飲食業やコンビニのバイトを掛け持ちした。

人とコミュニケーションを取るのは得意だったので接客業は向いていると思っていた。

しかし、たまに派遣会社時代のハラスメントがフラッシュバックして変な汗をかくようになった。


フリーターになってから2ヶ月、大学時代のゼミのメンバーで集まることになった。

そこには音信不通になった彼女がいた。

正直、明確なお別れもしていないので元カノなのか今カノなのかも分からなかった。


「発表します!私、結婚します!」

急に手を上げて、彼女は何が楽しいのか分からないが、笑いながら勝ち誇って宣言した。

どうやら彼女は俺の元カノになってたらしい。


会社の上司と結婚するタイミングで寿退社するとのことだった。

「就職して1年もたってないのに、寿退社って、旦那探しに就職したのかよ。女はいいよな!」

嫌味を言いたくなったが、半年で仕事を辞めた俺が言えることではない。


2ヶ月前まで彼女は俺と付き合っていたと記憶しているが、ビビビ婚でもない限り俺は2股かけられていたのだろう。

彼女が俺を見下すような顔で一瞥してきたので、2股を告発してやりたかった。

しかしプー太郎になった俺がそんなことを言えば、周りはこんな男と別れてよかったと彼女に同情的になるだけだと思った。

俺は大学時代はモテていたが、フリーターになった今明らかに見下され誰からも相手にされていなかった。


「ゼミの同窓会なんて行かなきゃ、良かった。」

俺はそれ以来、本当に女が信じられなくなった。

ほんの少し前まで俺に夢中のようなことを言っていた女が、もう他の男と結婚するのだ。

女という存在そのものが信じられなくて憎しみさえ抱くようになった。

人と接するバイトも対人恐怖症の悪化と共に続けるのが厳しくなり辞めてしまった。


メンタルのお薬をもらいに行く調剤薬局に行っては薬学部に入り薬剤師を目指さなかったことを悔いた。

医師の処方箋に従いクリームや粉を混ぜて出すだけで、俺のしていたバイトの2倍の時給だ。

法学部に入っていればロースクールに入って弁護士を目指すなどセカンドチャンスをつかめたかもしれない。


学ぶことは好きだったし、勉強は得意だった。

しかし、学部を選ぶ時に特に深く将来を考えていなかった。

大学時代に教職をとっておけばよかったのに、教育実習が面倒そうで選択肢から排除してしまったことを後悔した。


俺は23歳にして、人生を詰んでしまっていた。

両親は東京の有名私立に受かった俺を誇りに思って東京に送り出してくれた。

お正月に帰省した際も仕事を辞めてしまったことを、俺を誇りに思う両親を前に伝えられなかった。


「俺は勉強苦手だし、卒業したら地元で就職するよ!」

7歳年下の弟の選択は正しい。

東京に行けば夢見たいな生活が待っているなんて幻だ。

東京の女は強かで怖いし、地方の方がずっと人間らしい生活ができる。

東京なんて高い家賃を払って、日々生きていくのだけが精一杯だ。


帰省から東京に戻って、ぼんやり見ていたテレビ番組で儲かる職業の1位がラノベ作家だった。

「ライトノベル?」

俺は純文学が好きでライトノベルというものを読んだことがなかった。

でも、作家なれば人に会わずにお金が稼げると思った。

ラノベで検索をかけると、異世界に転生して異世界ライフを満喫するものが多いようだった。


俺が書いた1作目は、ニートが異世界に転生して現代の知識を武器に成功するものだった。

出版社に持ち込むと、すでにある多くの作品と酷似していると言われた。

そう言われて、ライトノベルを研究して思ったこと。


すでに、俺以外のニート達がライトノベルの世界に進出している。

ツッコミたくなるのは、自分たちの世界で相手にされなかったニート達が異世界に転生するとモテモテになるところだ。

どれだけ、異世界は人材不足なのだろうか。


他のニート作家と差別化をはかるとしたらこれだと思った。

俺は大学時代モテた経験があった。

だから、どんな言葉を発すると女にうけるかが経験としてあった。

現実逃避のようにニートがモテモテライフを書くより、ずっとリアリティーのあるものがかけると思った。


「登場人物が生きてないんですよ」

2作目もダメ出しをくらった。

心理描写については1作目より褒められたが、キャラクターに魅力がないらしい。


それは、そうだ俺自身が女や人間に失望している。

そんな俺に魅力的なキャラクターなど書けるはずもない。

適当な甘い言葉にフラフラする薄っぺらい人間しか俺には書けない。

人間という存在に魅力を感じていない、今すぐ人間をやめて鳥にでもなりたいくらいだ。


俺の信じた人間は、結局俺のことをそこまで愛してもくれていなかったじゃないか。

困った時に手を差し伸べてくれる人など1人もいなかった。

女なんて調子の良い時だけ近づいてきて、俺を暇つぶしに使っていただけだ。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?