「クリス・エスパル国王陛下に、エレナ・アーデンがお目にかかります。帝国よりはるばる、国王陛下の戴冠式のお祝いに来たのですが式典は終わってしまいましたね。遅刻の理由を聞いて頂いても宜しいでしょうか」
返り血をたくさん浴びたドレスで登場したエレナに一気に注目が集まった。
「遠路はるばるお越し頂いたのです。遅れても顔を出して頂いただけでありがたいです」
水色の髪に水色の瞳をしたクリス・エスパル国王陛下は明らかにビビっていて声が震えている。
彼はエスパルの独裁者になり、エレナが世界征服するパートナーになるはずだが思っていたより貫禄がない。
(エレナの圧が強すぎるからだ⋯⋯)
「こちらはお隣にいるヴィラン公爵にお土産ですわ。ヴィラン公爵家の家紋が刺繍された軍服を着たものたちに奇襲にあいましたの。その軍服でお土産を包んで参りました。帝国の護衛は少数精鋭ですのよ。ヴィラン公爵家の行いはエスパルの国としての判断なのかしら。これは、帝国への宣戦布告と受け取られても仕方がないですね。ライオット皇太子殿下を攻撃しようとしたんですもの。各国の国賓の方もいらっしゃいますね。お祝いに駆けつけた国賓に対する、エスパルの歓迎の仕方についてどう思われるか議論がしたいわ」
俺の手から中身が大将の生首である包みを受け取り、ヴィラン公爵に渡しながら優雅にエレナが静かに語る。
周囲の人間は彼女の落ち着いた口調と、生首に震撼していた。
「我が国の公爵が独断で適切ではない対応を取り、大変申し訳ないことをした」
クリス・エスパルは大勢の来客の前で、エレナに膝をついて土下座をした。
確かにこの状況でそれくらいしないと、エスパルは世界を敵に回すことになる。
「国王陛下、私はエスパルの将来を思って!」
必死に国王に縋るヴィラン公爵は近くの騎士に腹パンされて気絶した。
「そうでしたか、仕方のないことです。どの国にも困った方はいらっしゃるものですね。私はクリス・エスパル国王陛下のことは信頼しておりますのよ」
エレナがクリス・エスパルの腕を引き、立たせるようにしながら甘い声で囁く。
やはり彼女は彼と組むのだろうか、俺は嫉妬心のような不思議な気持ちが芽生えるのを感じた。
「クリス・エスパル国王陛下、私の婚約者は怖い目にあり大変傷ついています。着替えもさせて頂きたいので、部屋に案内して頂いても宜しいでしょうか」
気がつけば俺はクリス・エスパルとエレナの間に入って、エレナを自分の方に引き寄せていた。
エレナが少し驚いたような表情で俺を見ている。
そのキョトンとした表情も可愛くて、それも計算じゃないかと思うと怖くて複雑な気持ちになった。
「エレナ!どうして俺の前でクリス・エスパルを誘惑したんだ。君は俺の婚約者じゃないのか?俺の心が欲しいと言ったくせに、他の男の心まで欲しいのか?」
俺は用意された部屋に入ると、恐れ多くも最強ラスボスのエレナを壁ドンした。
「エスパル国王陛下を誘惑しているように見えましたか? 彼は将来的に駒として動かせるようにした方が良いですよ。私の行動は全てあなたの為です、ライオット」
壁ドンしたと思ったが、あっさり形成逆転で壁ドンカウンターされている。
「彼を駒として動かして、世界征服でも試みるのか? 来月、君が成人したら、すぐに俺たちは結婚する。そうすれば君は皇太子妃になり、未来の皇后だ。帝国は君のものになるだろう。それで満足してくれよ。男は俺一人で満足してくれよ。浮気も、2股もやめてくれよ!」
俺は気がつけば必死に彼女に懇願していた。
とても、恐ろしい彼女だけれど俺の理想がたっぷり詰まっている。
彼女に惚れないなど無理な話なのだ。
「レノア・コットン男爵令嬢と浮気や2股をしようとしたのは、ライオットですよ。では、誓ってください。あなたは生涯、目の前にいる絶世の美女エレナ・アーデンだけを愛し続けると誓いますか? 彼女が世界が欲しいと言ったら、手伝ったりもしますか?」
「はい、誓います。だから、俺だけを愛してくれ。それから、できれば帝国だけで満足するんだ! 分かったか?」
俺が言うと彼女は俺の前髪をかきあげ額にキスをしてきた。
「帝国だけで満足できるように、ライオットが私を満たし続けてくださいね」
計算かもしれないが無邪気に微笑んだ彼女が可愛すぎて、俺は彼女にキスを返した。