月花心花
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年06月25日
公開日
2.3万字
連載中
《記憶を継ぐ者》
かつて、地上に栄え滅びた文明が
今よりも劣っていたと、誰が言えるだろう。
エジプト、メソポタミア、インカ、マチュピチュ
そのすべてが滅びてもなお、声を持っている。
ナスカの地上絵、ストーンヘンジ、モアイ像――
誰が、なぜ、何のために。
それは未だ、風に問うしかない。
この物語は、過去であり、
現在であり、
そして未来でもある。
どこを起点にしても構わない。
始まりは、いつだって“あなたの目覚め”から。
時間(とき)を超えて巡る祈りと記憶。
ヒトとして、魂として、地球の行末を見守り続ける
ひとりの男の記録――
それが、『白き月、蒼き祈り』である。
* * *
物語は、かつての地球に降り立った
ナオヤとミサキ――ふたりの記憶から始まる。
天に浮かぶ白き月《ミレーネ》。
その地に築かれた観測拠点にて、
若き観測者ナオヤは、星《ガイア》の記録と向き合い続けていた。
彼の傍らには、調査員ミサキ。
無邪気なようで、どこか“祈り”の声に近しい彼女は、ある日、記録されていない古文書と出会う。
そこに綴られていたのは、“誰かの想い”。
まるで、自分の奥で何かが目覚めるように、
ミサキの中に、遥かなる祈りが響きはじめる。
やがて彼女たちは知ることになる。
それが、すべての記録に封じられた
ひとつの“魂の物語”であることを。
そして、その物語の中心にいたのは、
すべてを背負い、祈りと共に生きた青年・ドウジン。
そして、彼を陰で支え続けたひとりの男・ギル。
選ばれた者として生きることを強いられたドウジンと、
その傍らで、沈黙と忠誠を貫いたギル。
ふたりの記憶が、
時間を超えて“今”と交差しようとしていた――
そして静かに開かれる
《残響の扉》。
それは、すべての魂が巡り還る
“祈りの物語”の始まりだった。
【序章:黎明の章 ─始源の一節─】
──記録の巻頭より抜粋。
『黎明の章:始源の一節』
遥か古 この星にては
巨きなる鱗の獣ら 地を駆け空を裂きて 棲まいし時代あり
空は蒼く 海は深く 森はなお 月光をも覆うほどに満ちて
世は まだ眠れる記憶の裡に 在りき
然るに──
天の狭間より一つの星 火を帯びて堕ち来たる
響きは虚空を裂き 光は昼を焼き
その身 蒼海の底深くへと沈みぬ
これを人は災厄と謂ふ
然れど 我が家系に伝わるは異なりき
──それは 目覚めの刻なり
水と炎と 星々の血潮との交わりによりて
語り継がれし者 《ネファリス》 の血
初めて鼓動を得たり
脈打つは 時を超え
祈りのかたちとなりて 静かに残りぬ
記されし名は いつしか霞み
残されし声も 風とともに消えゆけど
魂は還り 巡る
そは 我らが受け継ぎし記録の真なり
忘却の深き淵にてなお
祈りは絶ゆることなく 静かに響き続けん
いまこそ語られむ。
白き月、砕けし刻より編まれし、
永き祈りの記録を──