海沿いの通りには洋館がずらりと並んでいる。元は外国人の別荘として使われていた物が払い下げられたらしく、今では金持ち達がそこに暮らしている。
その中の木々が
話は通っているらしく門が開かれて奥へと案内された。
門からは石畳が続き、木々が生い茂っているせいでとても暗い。時々庭なのに外灯が立っているのはそのせいだ。昼間にも関わらずぼうっと灯りが灯っている。
屋敷は古い洋館で赤い屋根が印象的だ。手入れはされているようで外観は美しく保たれている。
屋敷の扉が開かれると中は中央に階段があり左右に廊下が広がっている。階段下にもドアが見えるが、先ほど使用人が出入りしていたので彼らのための場所と思われる。
屋敷の使用人が庭の使用人と交代し案内を続ける。廊下を進んで応接室に通された。
応接室は広く大きなソファとテーブルが置かれており調度品は少ない。
使用人が姿を消すと席についた真舌がぼそっと
『あのさあ…実は一つ嘘ついてて…。』
『ん?何をだ?』
『俺を呼び出したのは奥様じゃないんだ。』
『はあ?』
雪久が少し大きな声を出したところで開けられたままのドアから男が入ってきた。
恰幅の良い男でアイロンのかけられたシャツにボウタイをし、折り目が綺麗なスラックス、銀縁の眼鏡をかけている。年は四十後半といったところか。
彼は
『どうも御呼び立てして申し訳ありません。』
品の良い口調で頭を下げる。真舌は軽く会釈すると落ち着いた表情で言った。
『それで…どういったお話で?』
高唾は小さく息を吐くと開いた膝の上に肘を置き指を合わせた。
『少し雑談でもと思いましたが…では本題に。いわゆる口止めです…がもう一つ。』
『なんです?』
『私の娘は今三歳です。貴方もご存知のようにね…しかし少しばかり体が弱い。それで何かあった時のために保険が欲しいのです。』
真舌はソファにもたれかかると足を組む。
『なるほど…で、俺は幾ら頂けるんですか?』
高唾は苦笑すると頷いた。
『話が早い。言い値で払います。こちらは娘の命に関わるのでね。その代わりと言ってはなんですが貴方にも危険なことなどは控えて頂きたい。』
『ああ、まあそうなりますね?善処しますよ。』
真舌はふっかけるような金額を提示した。それに高唾は笑い頷く。
『わかりました。しかし一括でご用意できるものではない。ですから月々貴方の口座に支払いをするでどうでしょう?』