『いいですよ。』
『しかし月々貴方の口座に支払うにも条件を。月に一度健康診断を受けてもらいます。もちろん全てこちらで費用は負担しますし、貴方は身一つでかまいません。』
『了解しました。その前に一つ、こちらからも質問が。』
『なんでしょう?』
『このことを奥様はご存知で?』
『いや、家内には言っていません。私の独断ですよ…。』
『なるほどね。そこはうまくやってくれると言うことでいいんですよね?』
『勿論、それと。私としては家内と娘には貴方を会わせたくありません。よろしいですか?』
真舌はうむと呟くと口の端をあげて笑う。
『そうですね…俺は構わないが、そちらから要望が出た時はどうするんです?』
高唾は黙り込むと俯いた。両手で拳を握りぶるぶると振るわせた。
『そう…ならないことを祈るのみですよ。』
高唾と言う男は真舌の話によると愛妻家らしく、真舌が妻の礼子と
仏頂面の真舌は銜え煙草でハンドルを握り、時折舌打ちをする。
『お前、煙草は辞めたんじゃないのか?』
『たまにはいいんだよ。なんかむかつくなあ…前も思ったけど。』
『そうなのか?』
『ああ、奥様が子供が出来たって時には傍にいたんだよ、あの人。』
真舌はもう一度舌打ちをすると指で煙草の灰を落とした。
『嫌だな、金持ちは。俺が幾ら提示したって出すつもりだったんだろうよ。』
『そうだな。いいんじゃないか?お前は大事な体なんだろうしな。』
雪久は喉の奥で笑うと先を指差した。
『そこで曲がってくれ。これで俺の役目は終わりだろ?お前の話に付き合うととんでもないからな。』
『雪久~意地悪言うなよ。今から飲もうぜ、俺の愚痴を聞け。』
『断る。それに俺もやらなくちゃいけないことがあるんでな。』
『ほう、なら仕方ないな。』
真舌はしょんぼりとすると雪久の家へとハンドルを切った。
『飲みたいなら菊ちゃんの所に行けよ。』
『そうしたいとこなんだが…店に行くのを止められたんだよ…。』
『何故?』
『菊ちゃんとは俺の家で会うからさ。俺としては店で会って、家で会ってってのがたまらんのだが。』
『…下らん男だ。』
雪久の家の前で車を降りる。運転席側に寄ると真舌が笑った。