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2-2

『いいですよ。』

『しかし月々貴方の口座に支払うにも条件を。月に一度健康診断を受けてもらいます。もちろん全てこちらで費用は負担しますし、貴方は身一つでかまいません。』

真舌ましたは鼻で笑うと頷いた。

『了解しました。その前に一つ、こちらからも質問が。』

『なんでしょう?』

『このことを奥様はご存知で?』

高唾たかだは苦虫を噛み潰すと片手で頭をかいた。その顔に冷や汗がにじむ。

『いや、家内には言っていません。私の独断ですよ…。』

『なるほどね。そこはうまくやってくれると言うことでいいんですよね?』

『勿論、それと。私としては家内と娘には貴方を会わせたくありません。よろしいですか?』

真舌はうむと呟くと口の端をあげて笑う。

『そうですね…俺は構わないが、そちらから要望が出た時はどうするんです?』

高唾は黙り込むと俯いた。両手で拳を握りぶるぶると振るわせた。

『そう…ならないことを祈るのみですよ。』


高唾と言う男は真舌の話によると愛妻家らしく、真舌が妻の礼子と逢瀬おうせを交わしていた事も知っていた。実際は彼の指示ではなかったのかと疑惑を持っていたらしい。そこは真舌も考えすぎだと思っていたようだが、今日の態度でどうやらそれも考えすぎではないようだ。

仏頂面の真舌は銜え煙草でハンドルを握り、時折舌打ちをする。

『お前、煙草は辞めたんじゃないのか?』

雪久ゆきひさは助手席でぷかりと煙を吐く。

『たまにはいいんだよ。なんかむかつくなあ…前も思ったけど。』

『そうなのか?』

『ああ、奥様が子供が出来たって時には傍にいたんだよ、あの人。』

真舌はもう一度舌打ちをすると指で煙草の灰を落とした。

『嫌だな、金持ちは。俺が幾ら提示したって出すつもりだったんだろうよ。』

『そうだな。いいんじゃないか?お前は大事な体なんだろうしな。』

雪久は喉の奥で笑うと先を指差した。

『そこで曲がってくれ。これで俺の役目は終わりだろ?お前の話に付き合うととんでもないからな。』

『雪久~意地悪言うなよ。今から飲もうぜ、俺の愚痴を聞け。』

『断る。それに俺もやらなくちゃいけないことがあるんでな。』

『ほう、なら仕方ないな。』

真舌はしょんぼりとすると雪久の家へとハンドルを切った。

『飲みたいなら菊ちゃんの所に行けよ。』

『そうしたいとこなんだが…店に行くのを止められたんだよ…。』

『何故?』

『菊ちゃんとは俺の家で会うからさ。俺としては店で会って、家で会ってってのがたまらんのだが。』

『…下らん男だ。』

雪久の家の前で車を降りる。運転席側に寄ると真舌が笑った。

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