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2-3

『でもさあ、菊ちゃんとはうまくいってるんだぜ?』

『なら良かったじゃないか。大事にしろ、じゃあな。』

車を見送り自宅へ戻ると廊下を掃除していたたまが微笑んだ。

『おかえりなさい、雪久ゆきひささん。』

『ああ、来てたのか。すまないな、掃除をしてもらって。』

『いいえ、仕事ですからね。お給金にはこちらの分も手当てとして入ってるようです。』

『そうなのかい?』

『ええ、番頭さんがそう言ってました。』

『でもある程度でいいよ。俺も掃除はしてるしね。そこが終わったら今日は上がるといいよ。』

『はい、ありがとうございます。お食事はいいんですか?』

『うん、自分で作るよ、ありがとう。』

雪久は自室に戻るとこれからの仕事で必要な書類を作り始めた。小鹿こじかが送ってきた教材に目を通す。資料には小鹿のメモが所々挟まっており、大体の指示が書かれていた。

部屋の本棚から幾つか取り出すと机に置き、資料とまとめて鞄に入れる。

まだ数日猶予があるが、ぬかりなく準備はしておきたい。

隣の部屋の衣装ケースからスーツを何着か選ぶと外へ出した。

先ほどの小鹿のメモには、あまり派手になり過ぎないように、とあったが…スーツに派手もなにもないだろうに。雪久は品の良いスーツを選ぶとブラシをかけて整える。

大方の準備を終えると食事を済ませ風呂に入るとさっさと寝てしまった。


週の始まり、雪久は清廉せいれん女学院の駐車場に車を止めた。名前の通りの学校で十代から二十代前半の女生徒が通っている。

教員用の入り口から入り挨拶を済ませると、小鹿が使っていた部屋に通された。

この学校では教員はそれぞれの個室を持っているのかと思ったが、小鹿が隔離されているだけのようだ。小さな部屋の壁際にはロッカーが置かれびっしりと資料が詰まれている。

『これでは探せないだろう…。』

雪久は詰まっているそれを見て零すとロッカーを閉じた。

ドアが少し開きノックの音がする。隙間から先ほど挨拶した一人の教諭が立っていた。

『すいません、続木先生。』

『はい。どうぞ。』

教諭はこれから担当するクラスの名簿を雪久に手渡した。

『これ、小鹿先生もお持ちだと思うんですが、多分探せないと思うので。』

教諭はそれだけ言うと部屋を出て行った。

『確かにな。』

雪久は名簿の表紙を捲る、中は生徒の写真と略歴が描かれている。

ペラペラと捲っていくと見知った顔が会った。近田雪江ちかだゆきえだ。

『ああ、この間のお嬢様か?』

貼られた写真は近影らしく先日あった雪江そのものだ。

『もしかして俺のことは誰かから聞いていたのか?』

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