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2-4

呟きながら頁を捲ると珍しい名前に行き着いた。日奈木瑪瑙ひなきめのう、写真は日本人離れした顔の美人だ。色素の薄い目が睨みつけている。

『変わった名だな…。』

予鈴のチャイムが聞こえて雪久ゆきひさは準備した教材を持ち、指定された教室へと向かった。

がらりとドアを開き中を見る。女学生達は皆、目を見開いてこちらを見ている。

雪久は眼鏡を上げると教壇に立った。

小鹿こじか先生の代わりで来ました。続木雪久です。よろしく。』

挨拶もほどほどに女学生たちがそわそわと話し始める。雪久は小さく息を吐くと教材を開き授業を始めた。程なくして授業が終わりチャイムが鳴る。

挨拶が終わると女学生達が教壇に群がった。

『先生、小鹿先生の代わりって知り合いなの?』『先生幾つ?』『恋人はいるの?』

どうやら好奇の目に曝されているらしい。

雪久は首を横に振ると両手で制止した。

『落ち着いてくれないか。俺は仕事でここに来ているだけだから。』

『つれなーい。』とさまざまな言葉が聞こえてくる。

少し困っていると聞き覚えのある声がした。近田雪江ちかだゆきえだ。

『続木先生、困っていますよ?』

教室の隅で座っていた雪江が立ち上がる。それに負けたのかぶうぶう言いながら女学生たちは散っていった。

雪久は雪江に礼を言い教室を出る。それに雪江も続いた。

『お久しぶりですね。やっぱり貴方でした。』

雪江はあの時と変わらない屈託のない微笑を浮かべている。

『ああ、助かったよ。新任はいつもあんな風なのか?』

『いえ、先生だけですよ。皆が浮き立つのは。』

雪久が苦笑すると雪江が笑う。

『仕方ありませんよ、今まで先生のような方はいらっしゃいませんでしたから。』

廊下を二人で歩いているが、やはり雪江の言うように珍しいらしくすれ違う生徒が皆振り向く。

『ああ、でも先生以外でもいますよ?』

『うん?』

ああ、と名簿の中の少女を思い出す。

『日奈木さんと言いますが、今日はまだ出席していないようですね。』

『病欠か?』

『いえ、少し変わった方で。』

『そう。』

雪江は足を止めると前方ににこりと笑った。その視線の先には天宮あまみやがいる。

『先生、私これで失礼しますね。皆浮かれているだけですからお気になさらずに。』

『ああ、ありがとう。』

小走りに天宮の下へ駆けて行く。天宮は雪久を認めると軽く会釈した。

雪久も会釈し小鹿の部屋へと戻る。なんだかドッと疲れた気がする。椅子に座ると少し窓を開けて煙草に火をつけた。

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