呟きながら頁を捲ると珍しい名前に行き着いた。
『変わった名だな…。』
予鈴のチャイムが聞こえて
がらりとドアを開き中を見る。女学生達は皆、目を見開いてこちらを見ている。
雪久は眼鏡を上げると教壇に立った。
『
挨拶もほどほどに女学生たちがそわそわと話し始める。雪久は小さく息を吐くと教材を開き授業を始めた。程なくして授業が終わりチャイムが鳴る。
挨拶が終わると女学生達が教壇に群がった。
『先生、小鹿先生の代わりって知り合いなの?』『先生幾つ?』『恋人はいるの?』
どうやら好奇の目に曝されているらしい。
雪久は首を横に振ると両手で制止した。
『落ち着いてくれないか。俺は仕事でここに来ているだけだから。』
『つれなーい。』とさまざまな言葉が聞こえてくる。
少し困っていると聞き覚えのある声がした。
『続木先生、困っていますよ?』
教室の隅で座っていた雪江が立ち上がる。それに負けたのかぶうぶう言いながら女学生たちは散っていった。
雪久は雪江に礼を言い教室を出る。それに雪江も続いた。
『お久しぶりですね。やっぱり貴方でした。』
雪江はあの時と変わらない屈託のない微笑を浮かべている。
『ああ、助かったよ。新任はいつもあんな風なのか?』
『いえ、先生だけですよ。皆が浮き立つのは。』
雪久が苦笑すると雪江が笑う。
『仕方ありませんよ、今まで先生のような方はいらっしゃいませんでしたから。』
廊下を二人で歩いているが、やはり雪江の言うように珍しいらしくすれ違う生徒が皆振り向く。
『ああ、でも先生以外でもいますよ?』
『うん?』
ああ、と名簿の中の少女を思い出す。
『日奈木さんと言いますが、今日はまだ出席していないようですね。』
『病欠か?』
『いえ、少し変わった方で。』
『そう。』
雪江は足を止めると前方ににこりと笑った。その視線の先には
『先生、私これで失礼しますね。皆浮かれているだけですからお気になさらずに。』
『ああ、ありがとう。』
小走りに天宮の下へ駆けて行く。天宮は雪久を認めると軽く会釈した。
雪久も会釈し小鹿の部屋へと戻る。なんだかドッと疲れた気がする。椅子に座ると少し窓を開けて煙草に火をつけた。