『私が悪いの。ダンスのレッスンに付き合ってって言っちゃったから。今度ね、父の仕事でパーティに出ることになって、ダンスは必須だって言われて。そしたら
瑪瑙は肩を
『悪いことしちゃった。』
『なるほどね。』
どうやらこの美人のために老体に鞭打ったらしいが、小鹿らしい。
『ねえ、先生はいつまでいるの?』
『ああ、そうだな。小鹿先生が良くなられたらすぐに交代になる。早ければ…来週とかなんとか。急ぎ鍼治療をお願いしている。君たちに教えるにもやはり本職の教師がいいだろうから。』
『ふうん…じゃあ短い付き合いになるのか、それは寂しいわね。』
『そう言ってもらえるとありがたいが…。』
『何?』
『ああ、皆どうやら気もそぞろでね。授業になっているのやら。』
雪久の困った顔に瑪瑙はハハと笑った。
『それは仕方ないよ、先生素敵だからね。小鹿先生も人気があるの、あのお年で結構な美形じゃない?御年七十には見えないほどよ。しかも若い先生となると浮き足立つのもわかるけどね。』
『フ、そういえばさっきも同じようなことを言われたな。俺としては困った所だよ。確実に教職は向いてない。』
『そんなことはないと思うけどね。まあ、お試しで頑張るってのも手じゃない?』
瑪瑙が笑うので雪久も釣られて笑った。
『そうだな。』
小鹿からは彼女の事は何も聞いていなかったが、孫のように接していたのかも知れない。
『ああ、そうだ。さっきのダンスの話、護衛の
雪久の提案に瑪瑙は首を横に振った。
『ないない、あの人は守る専門なの。』
『聞いてはみたのか?意外と上手いかもしれないぞ?』
『どうだろ。父と私が話していた時傍で聞いてたけど無関心を装ってたし。それに女の扱いが良くないから…。』
『うん?』
『以前私が歩けなくなってね…それで普通ならお嬢様を抱き上げるなら両手でこうじゃない?』
瑪瑙は両手を目の前に出すと持ち上げる仕草をした。
『けど彼は私をこう…ね。』
説明に続き、両手を荷物を肩に持ち上げるようにした。
『ありえないし、びっくりしたのよ。その時は着物だったから良かったけど洋服だったら足が見えちゃうし。』
雪久は顔を逸らすと噴出した。あまり笑ってはいけないので咳払いでごまかす。
『…なるほどね。』
『笑い事じゃないの。女の子には死活問題よ。』