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2-7

『それは失礼。』

雪久ゆきひさは笑いをかみ殺しながら煙草を吸った。ふと視線を感じて見ると瑪瑙めのうがじっと見つめている。

『うん?』

『先生は?ダンスは得意?』

『俺?』

『ええ、得意?』

『さて…教養としては身に着けてはいるが。』

『試してみてもいい?』

瑪瑙が真剣な顔をしたので雪久は煙を長く吐き出した。

『かまわんが…それより君は踊れるのか?』

指に煙草を持ったまま両手を広げた。それに従うように瑪瑙がその手を取る。

『少ししか空きがないからぶつからないように。』

雪久は瑪瑙をリードして体を動かす。軽く彼女を回転させると足を止めた。

『ハハ、踊れるのね。』

『君も大丈夫じゃないか?後は相手次第という所かな。』

煙草を銜えると瑪瑙から離れて窓辺に移る。

『…うん。』

瑪瑙は椅子に座ると小さく息を吐いた。

『まだ悩み事が?一つ解消したんじゃないのか?』

『勿論、けどパーティにはね、私の婚約者様がいるのよ。』

『ほう?』

『会ったこともない人なの…興味なんてない。』

『どんな人なのか知らないのか?』

『それは知ってる。父の会社の上役で年は二十七。』

雪久は一口吸うと煙草の灰を落とした。

『悪くないと思うが?年もそれほど離れてないだろう?』

『そう、私は今年で二十一だからね。』

『ならよさそうだが。』

瑪瑙は上目遣いで睨みつけると両手を膝に押し付けた。

『女心よ。突然婚約者なんて言われて、はいそうですかって結婚なんて出来ない。』

『まあ、そうだろうな。』

『先生はどう思う?』

『さて、どうだろうな。』

雪久の返事とともにチャイムが鳴る。瑪瑙は立ち上がるとぷうっと膨れた。

『もう行きます。』

ガラッと扉が開き、彼女の背中がドアに消された。

煙草を吸い込み、ふうと煙を吐く。あの様子だとここの常連らしいが、一度、小鹿こじかに伺ってみる必要がありそうだ。

雪久は椅子に座ると次の授業まで背もたれに寄りかかった。


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