『頭が痛い…。』
視線の先で煙草の灰が白く燃え尽きた。灰を灰皿に落とすとまたドアが開いた。
現れたのは
『こんにちは。』
猿渡は頭を下げて挨拶をするとにこりと笑う。人懐っこい笑顔だ。
その隣で瑪瑙は少し困った顔を見せている。
『こんにちは…先生、説明してくださる?』
『何をだ?』
『昨日はあれからずっと学校にいたってことを。』
猿渡は両手を後ろで組むと顔を上げた。
『ほら、信じてないのよ?』
『なるほど。猿渡君、瑪瑙さんは昨日はあれからずっと学校にいたようですよ?』
『本当でしょうか?お帰りの時刻にも現れてくださらず…私は校内を走り回り先生方に叱られてしまいまして。』
『それは…気の毒に。それで君はどこにいたの?』
雪久が煙草を持った指で瑪瑙を指す。瑪瑙は少し言いにくそうに目を逸らした。
『ダンス倶楽部…。』
『うん?』
『ダンス倶楽部の方がレッスンしてくださるって言うからそれをやってたんです。後ろ暗いことなんてありません。』
そう言うと彼女の耳が真っ赤に染まった。どうやら彼女にとっては知られたくないことらしい。
『だそうだ?猿渡君。』
猿渡は眉を下げて微笑むと瑪瑙に頭を下げた。
『申し訳ありません…お嬢様に恥ずかしい思いを…。』
猿渡が言い切る前に瑪瑙がかき消す。
『ちょっ、やめてやめて。余計に恥ずかしい。とにかく探し回らなくてもちゃんとあなたの元に戻るわ。だから車で待機してて。』
『了解しました。けれどお時間は十八時と約束していただけますか?それ以上はお父様も心配されますので。』
『わかった!わかりました。だからもう行って!』
瑪瑙が猿渡を部屋から追い出すと彼は優しい顔をして去って行った。
赤い顔をしてドアを閉める瑪瑙に雪久が苦笑する。
『先生も!笑わないでって。』
『これは失礼。』
雪久は喉の奥で笑うと、新しい煙草に火をつけた。
『それで…それだけが用件か?』
『あ…そうじゃないけど。用がないと来てはいけない?』
瑪瑙は椅子に座ると少ししょんぼりと俯いた。昨日の
『いや…そうでもないが。』
『ならよかった。先生とも話をしたかったし。』