彼女が何を考えているのかは分からないが、寂しそうには見える。
『わかった。けれどそろそろチャイムが鳴る頃だ。』
そう告げるとチャイムの音が響き始める。
『では参りますか?お嬢さん?』
下校時刻、チャイムが鳴り廊下には学生たちの品の良い挨拶が溢れている。
上流階級の娘たちらしく去り際の美しさは類を見ないと学校長は豪語していたが、雪久に当てられる好奇心は今だ変わらない。数日ではあるがそれにも慣れつつある。慣れとは怖いものだ。
廊下の向こうから声をかけられ振り向くと事務員が駆け寄ってきた。
『
事務員は雪久の返事を聞いてから手に持っていた封筒を手渡した。
『これ、
『ああ、はい。』
『それでは失礼します。』
頭を下げて小走りに廊下を行く。雪久は封筒を表裏と返し確認すると小鹿の部屋へと戻った。明日は授業がないため、必要なものは持ち帰るために荷物をまとめる。
ふと顔を上げて壁際のロッカーに目をやるも、飛び出している何かに小さな溜息が出た。
部屋を出て鍵を閉め、事務によってから駐車場で車に乗り込んだ。日も暮れて人気のない駐車場にライトが照らされるとタイヤの音が大きく響く。
雪久はいつもの帰り道とは違う方向へハンドルを切るとアクセルを踏み込んだ。
小鹿の家まではここから一時間程だ。彼も学校への通勤には車を利用しているが、舗装されていない道はやけに腰が痛む。
少しスピードを落とすと煙草をふかしながらドライブを楽しむことにした。
田舎道は田畑が美しく少し離れた川がキラキラと夜の闇に光っている。
民家から離れた場所に大きな一軒家が見えてくる、小鹿の家だ。小鹿はこの辺りでは有名らしいが雪久は事情までは知らない。
小鹿の家の前に車を止める。砂利を踏みしめる音に家人が気付いたのか玄関扉が開いた。
『あら、続木さん。いらっしゃい。』
出迎えてくれたのは
『こんばんは、先生はいらっしゃる?』
『はい、父ならお部屋にいますよ。どうぞ。』
『どうも。』
手荷物だけを持って小鹿の家に上がった。小鹿邸は洋風で大きな窓が複数あり、美しい壁紙に洒落たライトが灯っている。
それぞれの部屋は大きく作られており、物が少ないせいかがらんとした印象がある。使用人がいないこの家は沙耶が全て管理しており、美しく保たれているのは努力の賜物である。
『父さん?続木さんがいらしたわよ?』
ドアをノックして開けると、奥の机で何か読んでいた雨月が顔を上げた。
『あら…雪久。』