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3-6

沙耶さやに軽く会釈して部屋に入ると雨月うげつの前に封筒を差し出した。

『ん?』

『学校の事務からです。何か頼まれていたんでは?』

『ああ、そうそう。』

雨月はマチ付き封筒を開けると中から書類を取り出した。書類はそれぞれがクリップで纏められていて写真も留められている。

『なんです?』

『これは生徒達のあれこれ。色んな子がいてね…それぞれに目をかけているんだよ。ほら、この子は佐倉乃さくらのとき子と言って、結婚する前に色々教えて欲しいと来たんだ。』

『あ…。』

雪久ゆきひさは真面目な顔をして雨月の顔を覗きこむ。

『先生…この佐倉乃とき子に手を出してないでしょうね?今日、彼女は礼に来ましたよ?』

雨月はケラケラ笑うと雪久に書類を手渡した。

『そらあ、それで素敵だろうが…それを見なさい。彼女は両親を早くに亡くしていてね、母方の祖母と暮らしているんだが見合い相手が気にするだろうか?と気に病んでいたんだよ。』

書類にはとき子の経歴と見合い相手の詳細が書かれている。また一般的な書物の名前も複数あり、嘘は言っていないように思われる。

『それで彼女はなんて言ってたの?』

『縁談がまとまったようですよ。でも、彼女に変なこと教えてないでしょうね?』

『うん?そらあ、大体は男が率先するものだとは言ったが…。』

『…。』

雪久は黙り込むと腕を組んで目を細めた。

『雪久…何故そんな冷たい目をして見る?』

雨月は大きく息を吐いて頬杖を付いた。

『君はどうしてそんなに堅物かねえ…女学生だって色恋の物語くらい読むだろう。それこそ男女のいろはを教えるなんてことはないんだから。』

『まあ、それはそうですが。それと彼女のことも。』

『あ、瑪瑙めのうさんか?彼女のことが気になるか?』

『そういうわけでは…ただどこか寂しそうに見えました。』

『そうだろうね。』

雨月は書類をもう一つ雪久に手渡した。それは数枚で彼女の母親についての調査らしい。書類の真ん中には不明と大きくハンコが押されている。

『色々あるのさ、あの子も。それで来週には戻れそうだよ。』

『そうですか…よかった。』

『うん?溜息交じりなんて珍しい。』

雪久は苦笑すると眼鏡を外して胸ポケットに突っ込んだ。

『…いや、俺は女性が苦手なわけではないですが、あんな風に好奇心の毛皮を来た女性たちを見るとは思いませんでしたよ。』

『ハハハ、授業にならんかったか?』

『でしょうね…こっちは必死でしたが、関係ないようです。』

『まあ、そういうもんさ。女は女で色恋に興味があるものだから。』

『はあ…。』

雨月は立ち上がると雪久の肩をポンと叩いた。

『明日は休みだろう?今日は泊まって行け、美味い酒がある。』

雪久は肩をすくめるとそれに従うことにした。

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