いつの間にか持ち込まれていた書類が机の上に散らばっているのに気付き、雪久は手早くそれを纏めて整えた。
すでに授業へと出た小鹿のいない部屋で窓を開ける。そして煙草を銜えると一服した。
先日受け持った授業を終えて安堵したものだが、こうしてチャイムが鳴るごとに拘束されないことがこんなに気が楽だとは思わなかった。
ふうと煙を吐いて外を眺めると見知った顔が見えて雪久はあっ、と思い出した。
胸元に手を置き確認すると煙草を消して部屋を出た。
正門前に置かれた数台の車にはそれぞれ人が立っている。その中から一人を見つけると声をかけた。
『
雪久に気づき天宮は破顔すると軽く会釈した。
『こんにちは、
『いや、もう先生じゃないんだ。』
否定した雪久に天宮はああ、と頷いた。
『そうですか…なんだか残念だ。お嬢様も良い先生だと仰っていたから。』
『ハハ。そうでもない。てんてこ舞いだったよ。まあ、良い経験にはなったろうが教師には向いてないことはわかったよ。』
『そうですか。今日はまたどうして?』
『ああ、代わりをしていた人の送迎でね。まだ本調子ではないんだけど、動けるようになったから今日からまた教壇に立っているよ。』
『そうか、小鹿先生が戻られたのか。あの先生も良い先生だと聞いています。』
『うん。…ああ、そうそう。』
雪久は胸元から写真を取り出すと天宮に差し出した。
『すまない、君の大事な写真を借りたままだった。』
『ああ!』
天宮は受け取ると写真を見て顔を綻ばせる。
『良かった、捨てられていなくて。』
『フフ、天宮君の大切なお嬢様の写真を捨てたりはしない。』
雪久が笑うと天宮ははっとして顔を赤くした。
『あああ…いや、その…ううう。』
何か歯切れの悪い声を出して天宮は俯き、写真を車の中の鞄に大切にしまい込んだ。
どうやら天宮にとっては本当に大切なお嬢様らしい。
『ありがとうございます。』
『うん。なあ、天宮君。』
『はい?』
『雪江さんはまだ時々パフェを?』
天宮は赤い顔で微笑むと頷いた。
『ええ…でももうあんな風には。今はきちんと僕を誘ってくれま…。』
そう言いかけて雪久の顔を見るとうっと苦虫を噛み潰した。
『続木さん、からかってるでしょ?』
『いいや。そう思ったなら申し訳ない。』