『護衛は大変じゃないのか?』
『いえ…もう昔からなので。』
『ふうん?聞いても?』
『ええ、かまいませんよ。僕の父は
『ああ、それで。』
『ええ、小さなお嬢様を見た時に胸が震えました。この方は自分が守るんだって…まだ幼い時分でしたが決めたんですよ。』
天宮は思い出したように両手を見た。
『きっと実見様は遊び相手くらいに思っていたんでしょうが。』
そう言って袖のカフスを外すと捲り上げた。腕には大きく深い傷がついている。
『昔のことです。別荘地で遊んでいた時に古びた家屋が崩れて…近づくなと言われていたんですが何分二人とも子供でしたから…。お嬢様に怪我はありませんでした。』
天宮は笑うと袖を戻してカフスを留めた。
『お嬢様は今でも時々傷を見ると胸を痛めるようです…。』
『ああ、そうかもな。』
雪久の言葉に天宮は顔を上げた。
『続木さん、お嬢様はずっとこれを気にするでしょうか?』
『うん…どうだろう。何故だ?』
『…ここだけの話にしてください。』
『ああ。』
『お嬢様は縁談をお断りしているんです。それを父から聞いて驚きました。』
雪久は黙って煙草を吸う。天宮は眉をひそめた。
『僕のせいじゃないかって…お嬢様には幸せになって欲しいと願っているのに重荷になっている気がして。』
『…そうだな。天宮君がそう思うならそうかも知れない、でも雪江さんには雪江さんの事情があるんじゃないのか?』
『そうでしょうか…。』
『聞いてみればいいんじゃないか?』
『聞けません。そんな失礼なこと。』
『うむ、ならば時間が解決するのを待つしかないな。いずれ彼女も良縁を結ぶだろうし。』
雪久の言葉にはっと天宮が顔を上げた。そして視線を逸らすと呟いた。
『そう…ですね。』
『まあ、なるようにしかならんのではないか?君が望めば、違う道も開けるだろうが。』
雪久はふうと長く煙を吐き出した。
それを見て天宮は姿勢を正すと頭を下げる。
『すいません、長々と拘束してしまい申し訳ない。』
『いや、かまわない。こちらこそ長話に付き合ってくれてありがとう。じゃあ俺はもう行く。』
手を上げて天宮と別れると煙草を片手に歩き出した。