どうやらお嬢様と護衛の恋は難しいらしい。身分もあるがそれでも当人の問題でもある。
後ろ手にドアを閉めると雨月がぼやいた。
『
『知りませんよ。それで久しぶりの授業はいかがでした?』
雨月が唇を突き出して膨れながら話す。
『楽しかったよ。皆ついてくるのに必死だったけどね。』
どうやら憂さ晴らしはしたらしい。むくれてはいるが生徒達に会えたことは嬉しかったようでもある…生徒というか女生徒たちというか。
『ああ、そうそう。雪久。』
『はい?』
雨月は煙草に火をつけると窓を少し開けた。
『来月の頭にちょっと用があってね、それに付き合ってもらうよ。』
『はあ。一日ですか?』
『いいや、夜だけだ。友人に招かれたパーティに出なければいけなくてね。まあ調査もかねているんだが、酒も入るだろうから運転手を頼みたい。』
『わかりました。俺は運転手だけでいいんですよね?』
『んーそうとも限らんが…。』
雨月の話の途中でドアが突然開いた。二人はくるりとドアを見る。
『失礼します。』
そこに立っていた女性が驚いて瞬きを繰り返すと軽く会釈する。髪を片側で束ねた清楚な女性だ。
雨月はにこりと笑うと雪久の傍の椅子を促した。
『やあ、いらっしゃい。
玲架は微笑むと椅子に座り姿勢を正す。凛としたお嬢様だ。
『お久しぶりです、今日は授業を取っていませんからこちらにご挨拶に。』
『うん、そうだね。元気そうで何よりだ。それで…ああそう。』
雨月はごそごそと鞄を開けると古い本を取り出した。
『これだね?』
玲架は頷くと両手でそれを受け取った。
『ああ、良かった。持ってきてくださって…お借りしてもよろしいんですか?』
『勿論。勉強になるといいね。』
雨月の言葉に玲架は恥ずかしそうに微笑むとぎゅっと本を抱きしめた。
『ではこれで失礼しますね。お客様もいらっしゃいますし。』
『ああ、そうだね。返すのはいつでも構わないよ。全て試すのは難しいだろうが。』
雨月がぱちりと片目を瞑ると玲架はフフと笑った。
ドアが閉まり彼女がいなくなると雨月は満足げに煙草をふかした。
『なんです?あの本…どこかで見た覚えがありますが…。』
『んん、ああ、あれね。
雪久は咳き込むと雨月を睨んだ。
『なんて物を貸してるんですか、女性ですよ!』
『だって…貸して欲しいっていうから。』
『そんなかわいこぶったって駄目ですよ?何考えてるんですか。』