『そんなこと言ったってねえ…君のような
『そうですが…。』
『女には女の理由がある。あれを必要としているのであれば殿方も嬉しかろうよ。』
『それでさっきの話の続きだが。』
切り替わりの早い雨月に雪久は顔を上げ背筋を伸ばした。
『盛装で行くことになる。』
『運転手もですか?俺は中に入る必要はないのでは?』
雨月は笑うと顎に指を当てた。
『うん、それはそうだが…調査は人手が多いほうがいい。』
『なるほど。わかりました。』
『うん。』
『で、何の調査なんです?』
『んーああ。説明は追々しようかね?』
雨月は煙草を消すと手元の資料に取り掛かった。それを見て雪久は黙るとゴミ箱を片手に部屋を出た。くしゃくしゃに丸められた紙が沢山入っている。
ああなると話もできなくなるため少し時間を置いた方がいい。
しかし…女子生徒に四十八手など…普通のことなんだろうか?好奇心があるとはいえ、あれは雪久でも少々頭の痛いものではあった。
学校の隅にある焼却炉にたどり着くとゴミ箱の中身を入れて蓋をした。
丁度中では火が炊かれ煙が上がっている。その場で煙草を銜えると火をつけた。
深く吸い込みゆっくりと吐き出す。
校内でまたチャイムが鳴り生徒たちが急ぎ教室へと入っていく。
女には女の理由か…。雪久はふうと息を吐いて口に煙草を銜えた。
昔付き合っていた女性は深窓の令嬢ではあったが、雪久が段階を踏んで付き合いを進めようとしていることを知り、別れを切り出された。
後で聞いた話ではどうやら怪奇小説などに出てくる怪盗のように自分を攫って欲しかったらしい。
今では浮名を流した相手と恋愛をしていると風の噂で聞いた。物静かな人だっただけに行く末が心配にはなる。
こうして女の園にいると見たくないものまで見えてしまいそうで、当分運転手をしなければならないのなら外で時間を潰すことを考えるか、と空を仰いだ。
『あれ?
ん、と声がした方へ振り向くと廊下には女性教諭が立っていた。天然なのか栗色の髪が緩く波打っている。教師らしくツーピースのスーツで細い足元は華奢なヒールが見えた。
『ええと。もう先生ではありませんよ?』
雪久が煙草を指で挟むと彼女はこちらへとやって来た。
『もう、名前覚えてくれていませんね?
『ああ、月島先生、申し訳ない。』
『いいえ。続木先生は確か先週の授業で最後でしたか?』
『ええ、短い間でしたがうまく出来たかどうか。』
花蓮はぎゅっと拳を作るとそれを上下に振った。